気管支に直接効かす吸入剤

 

 また、粉末の薬の一種として、咳止め、ぜんそく、アレルギーの治療薬などがあります。これらは「吸入剤」といって、吸いこんで気管支などに直接効かすための薬剤です。

 吸入剤を使う治療法を「吸入療法」と呼びます。この吸入療法は、吸入器と呼ばれるデバイスがいります。口で吸入器をくわえ、強く息を吸ったり、あるいは噴霧器で薬を気管支に噴霧するという方法です。

 抗アレルギー薬を錠剤で飲んだり、静脈汪射で血液中に直接投与する場合は、目的地である気管支に到達できる量は、投与した薬の量のうち、ほんのわずかでしかありません。直接、病気の部位の気管支へ薬を作用させる治療法のほうが、より優れた効果が得られます。この治療法を使えば、病気が早く治り、さらに、全身性の副作用も少なくてすむメリットがあります。

 吸入器として、フロンガスを用いる「定量噴霧器」が長く使われています。

 しかし、なかに使われているフロンガスが、オゾン層を破壊する化学物質なので、世界的に規制がかかってきました。モントリオールで開かれた環境会議の議定書によると、オゾン層を破壊する物質は、1996年から全面的に廃止しようと書いてあります。

 医療用の噴霧器に使うフロンガスは、使用する量がそれほど多くないので、例外として05年を全廃の目的期限にしよう、と決められました。

 しかし、アメリカのFDA(食品医薬品局)は、1997年3月6日の官報(フェデラルレジスター)で、フロンガスを用いた吸入剤を廃止する案を提示しました。2000年をめどに全廃しよう、という意見が高まっています。

 このような環境問題に対する世界的な配慮から、フロンガスに代わるものの研究が熱心に行われています。そこで登場してきたのが、代替品であるHFA-134Aという、化学物質を使用した「定量噴霧器」です。

 この新型の噴霧器を使って、抗ぜんそぐ薬の硫酸サルブタモールのエアゾール吸入剤が、商品名アイロミールとして、最近、大日本製薬より発売されました。

 いっぽう、古典的な吸入器として「スピンヘラー」という名称で、抗アレルギー薬のクロモグリク酸ナトリウム(商品名インタール)を含有する吸入器が、30年近く日本で使われています。

 スピンヘラーを口にくわえ、深く息を吸いこむと、吸入時の空気でプロペラが回転し、ジェット気流を起こします。その気流に乗って、穴から放出されたクロモグリク酸ナトリウムの微細粒子が舞い上がり、気管支にまで届く仕組みになっています。ぜんそくの子供を中心に、このスピンヘラーは広く使われています。

 2種類の代表的な吸入器について紹介しましたが、吸入療法は、呼吸器の病気に対し、非常によい治療法であることがおわかりいただけたと思います。

 しかし、問題もあります。

 吸入法のトレーニングを行わず、微粒子噴霧器で誤った吸入を行うと、気管の下部に沈着する薬の量にバラツキがでることがあります。特に、吸入のタイミングが難しく、子供やお年寄りには非常に使いにくいことがあります。強く吸いこむと、大量の薬の微細粒子を吸いこみ、循環血液中の薬の濃度が大幅に上昇してしまうこともあるので、くれぐれも注意してください。

 これらの点を改良したのがエアゾール吸入剤です。子供やお年寄りにとっては使いやすいものです。微粒子噴霧器も改良が行われています。1~2年で新しい製品も発表されるでしょう。

◆ドリンク剤は即効性があるが、絶対に決められた量以上飲んではいけない!
◆腸溶性の顆粒剤を水やぬるま湯に溶かしてから飲むと、効果が低くなる!
◆気管支の病気での吸入療法では、危険なことがあるのでよく吸入法をトレーニングをする。

『薬の聞く人、効かない人』高田寛治著より