胃で効かなければならない薬

こうして、ほとんどの薬は、胃を通りすぎて小腸にいってから、吸収されることを考慮して作られています。

 だったら、胃で効かなければならない、胃潰瘍薬、胃薬などはどうなっているでしょうか。

 胃で効かす薬は、胃で素早ぐ溶け、胃の粘膜に作用させなければなりません。だから胃薬などは、胃で素早く溶けるように工夫されています。

 最近の研究で、胃潰瘍は、ヘリコバクターピロリ菌(一般にピロリ菌と呼ばれる)による感染症だということがわかってきました。胃潰瘍は、胃の粘膜にピロリ菌が貼りついたために起こる病気です。そこで胃の粘膜に貼りついたピロリ菌を、荳困する治療法を考えなければなりません。

 ピロリ菌に効く薬剤は、2種類の抗生物質、すなわちアモキシシリン(商品名アモリン、サワシリン、パセトシンなど)とクラリスロマイシン(商品名クラリス、クラリシッド)です。実際の治療では、2種類の薬剤に潰瘍薬のオメプラソール(商品名オメプラール、オメプラソン)を加え、3種類の薬剤を組み合わせた「カクテル療法」が、よく効くということもわかってきました。

 しかし、オメプラソールとクラリスロマイシンは錠剤、アモキシシリンはカプセル剤です。これらの薬剤を飲むと、10~15分以内に胃で溶けます。

 たしかに、胃の粘膜に貼りついているピロリ菌に殺菌効果を示します。しかし、残念ながら胃の収縮運動によって、薬は30分ほどで小腸へ運ばれてしまいます。そうすると、ピロリ菌ので患部に届くか殺菌効果を示す、薬の最低治療濃度が保てなくなり、効率よく殺菌ができなくなってしまいます。現在の治療は、数グラムもの抗生物質を大量に、しかも1日に数回に分けて飲む、という治療法がとられています。

 ところが、薬物動態学の立場から考えると、薬剤を飲んだ後、抗生物質が胃で長時間とどまるような技術を使えば、ピロリ菌を効率よくやっつけることができます。

 そこで、現在、研究開発中の薬剤があります。飲む前はサラサラとした細かい粒で、飲むと胃で水分を吸って「ゲル状」のねとっとした状態になり、粒が膨潤して糊状になります。その糊状の粘着力で、胃の粘膜に貼りつきます。その後、アモキシシリンが、徐々に長時間放出され、ピロリ菌を殺すという仕組みになっています。

 このような新しい薬剤が、いずれ市場に出回ることになり、胃潰瘍は治りやすくなると思います。