Bt遺伝子組み換えトウモロコシをめぐる「バイオ安全議定書」の策定


 遺伝子組み換えジャガイモが、ラットの免疫を低下させたというイギリスのパズダイ博士の報告(98年)や、米国コーネル大学の研究チームが発表した、Bt遺伝子組み換えトウモロコシの花粉が蝶(オオカバマダラ)の幼虫の成長に影響を与えたという報告(99年)は、EUやヨーロッパ諸国の遺伝子組み換え食品の反対運動や行政措置に強い影響を及ぼした。

 EU環境相理事会は、すぐさま遺伝子組み換え作物の新たな認可を2002年で凍結することを決めた(99年6月)。また、組み換え食品の安全評価や表示、監視を厳しくすることをも決定した。オーストリアは、EUですでに確認されているBt遺伝子組み換えトウモロコシの栽培を禁止した。

 EU各国は、安全性や環境への影響を懸念を強く主張し、組み換え作物に対する行政措置を積極的に実施してきた。これらEUがとる遺伝子組み換え食品への対応は、ホルモン剤を使用して肥育した米国牛肉の輸入を禁止している状況と同じであり、貿易摩擦を恐れずに健康への配慮を優先させる

 一貫した姿勢が見られる。それとともに、安全や環境保護を切り札に自国の農業や、遺伝子技術を守り、育成しようとする立場が貫かれている。

 遺伝子組み換え食品に対するせめぎ合いは、WTOの場だけではない。生物多様性条約の締約国会議でもEUや途上国と米国、カナダなど遺伝子組み換え食品の開発推進国の問に主張の対立がある。会議では、遺伝子操作された動植物の貿易によって生態系に及ばす悪影響を防ぐことを目的とした「バイオ安全議定書」の策定が交渉されてきた。途上国、EUと組み換え作物輸出国との対立が続いてきたが、2000年1月にモントリオールで開かれた特別締約国会議で、組み換え生物の国際取引規制に関する議定書が大筋合意された。

 組み換え作物の種子を栽培、研究目的で輸入する場合、輸出国による環境に与える影響の評価と輸入国への通知、輸入国の事前同意が義務づけられ、輸入禁止の措置がとれる道が開けた。食品、加工用や飼料用の品種については事前同意の対象から除かれたが、輸入国で個別に安全性を判断できることになった。議定書は、国際協定を拘束するものではなく、特にWTOとの関係はあいまいさを残している。 しかし、EUや途上国の主張が受け入れられ、WTO体制へのくさびとなった。

 日本の場合は、貿易摩擦を恐れる余り、あまりにもWTO体制に従順でありすぎたのではないだろうか。国民の健康や生態系を守る姿勢が希薄であるとともに、遺伝子組み換え技術をもつ米国や多国籍企業の農業支配から日本の農業を守ろうという政府の確固たる農業、食料政策がうかがえない。日本の食料自給率は、エネルギー換算で40%に、穀物換算自給率に至っては27%に達するまでに低下した。工業製品の輸出を優先するなかで生じた貿易摩擦を回避するために、食料を大量輸入する枠組みがある。コメの関税化はその典型といえる。食料自給率を上げる努力がない限り、たとえ、日本独白の遺伝子組み換え作物や食品が開発されても、その成果が生かせないことになる。