遺伝子組み換え作物自体の雑草化


 遺伝子組み換え作物も一個の生物個体である。耕地に存在し、生物個体としてライフ・サイクルを全うするなかで、生物であるために起こり得る挙動としては、遺伝子組み換え作物が他の目的作物にとって、雑草となることがある。今のところ、ダイズ、ナタネ、トウモロコシのような種子を利用する作物やジャガイモのようなイモ(地下茎)を利用する作物が中心となっているが、いずれも人間が利用する部分が、次期の栽培の出発点(タネ、親イモ)となっている。

 収穫の際に種子やイモを完全に畑から収穫すれば別だが、どうしても一部のコボレ種子やイモが畑に残る。

 それが次の栽培期に芽を出せば、雑草となるわけである。雑草というのは農業管理の用語で、雑草という植物があるのではなく、その時の目的作物以外の一切の植物を雑草と呼んでいるのである。

 さらにまた、生殖過程を通じて、組み換え遺伝子が近縁の雑草に伝わり、いわば遺伝子組み換え雑草を作り出す可能性がある。

 ダイスのようなマメ科の植物は、1つの花の中のオシベとメシベの問で花粉のやりとりをする自家授精が一般的であるから、遺伝子組み換えダイスとマメ科雑草の間で遺伝子の交流の機会はないものと思われる。しかし、ナタネのようなアブラナ科植物やトウモロコシのようなイネ科植物は、他の花や株の花粉で授精する他家授精が一般的な植物であるから、遺伝子組み換えのナタネやトウモロコシの花粉が、同じ科の雑草に授精をうながす可能性はかなり高いものと思われる。しかも、温帯地域の耕地には、アブラナ科やイネ科の植物は極めて多いのである。

(1)隣接する農耕地の間での雑草

種子の空中散布による雑草

 大規模な農場においては、しばしば種子がヘリコプターや飛行機によって播かれる。この場合、もし隣接の農場が小川や土手や林などによって境界が壁のようになっていれば別だが、そういうことはあまりなく、農道などを挟んで隣接していることが普通であろう。

 種子は当然隣接の農場に到達するであろうから、隣接の農場においては、こちらの遺伝子組み換え作物雑草となる可能性がある。たまたま隣接の農場で使用された除草剤に耐性のある遺伝子が組み込まれた作物でしたら、立派な雑草となり、隣接の農家とのトラブルのもとになるであろう。

集約的な耕地における雑草

 日本のような、小規模の農耕地が入り組んだ集約的な農業地域においては、遺伝子組み換え作物雑草となる可能性はずっと高いと考えなければなるまい。すなわち、集約的な農耕地においては、多様な作物が隣接することになるから、1つの畑の作物が隣の農耕地の雑草となる機会が増大することになる。この際にある除草剤に抵抗性のある遺伝子組み換え作物は、雑草としての能力を強め、隣接の農耕地の厄介物になるだろう。