遺伝子組み換え作物種の増加による危険性


 殺虫性の遺伝子組み換え作物はまだ種類が少ないが、適応する害虫の範囲を広げて、殺虫性の遺伝子組み換え作物の種類が増えるにつれて、草食性の虫の種類と数は減少するであろう。

 これは化学殺虫剤の多用と類似した問題であって、農耕に有用な肉食性の虫や鳥などの食物を奪う行為に他ならない。まさにレーチェル・カーソンが嘆いた『沈黙の春』の生物版ということができよう。前述した食物網のなかの作物と、これを食う虫というほんの一部の行為が、網に予想外の影響を及ぼすことになるのである。

 

 現在のところは遺伝子組み換え作物種は少数の段階だが、目先の有利性にとらわれて、組み換え作物種の数が増えた場合のアセスメントはどのようになっているのだろうか?

 大局的には現在のような除草剤耐性、害虫毒の遺伝子組み換えの研究増加の間に一層複雑な耐病性、耐干ばつ性のような遺伝子組み換え作物が招来されるものと予想されるが、その間に開発された除草剤耐性、害虫毒の遺伝子組み換え作物は研究農場に閉じ込められることはなくて、利洲の追求のために実用化され、農耕地に氾濫せざるを得ないであろう。

 そこには計りしれない危険がともなうものと考えられるが、これを帰化動植物のリスクから想像してみよう。

(2)帰化動植物によるリスクの教訓

 今日、世界の各地において、外来の生物、すなわち、我が国における夕イワンリス、ヌートリアセイタカアワダチソウ、ブタクサ、インフルエンザ・ウイルスなどの帰化動物帰化植物による農業上、予防衛生上、環境保全上のトラブルは枚挙にいとまがないほどである。これらのなかには意図的に導入したものもある。すなわち、米国のTVA(テネシー渓谷開発公社)の水路の堤防の土止め用に日本から導入されたクズが、その役日を果たした半面、堤防から逃げだしたものが各地で雑草化し、その駆除に米国は悩まされ多大の経済的な損失を蒙った。同様な例は我が国の南西、術励においてハブの駆除のため導入されたマングースが養鶏に被害を与えたなど、多数の事例がある。しかし、帰化動植物はむしろ人間の往来や貨物の輸送にともなって、人間が気付かないうちに、導入されたものが多い。港湾の荷物について導入された帰化の草や虫などがそれである。

 このような意図しないことにともなうリスクは、遺伝子組み換え作物の安易な導入の警告となるであろう。したがって、生態系における外からの導入生物の行方に関するこれまでの研究事例を検討し、そのなかで遺伝子組み換え作物の行動予想に役立つシミュレーションなどを研究することも可能であろう。

 今日の作物は多様な種類から成り立っているようにみえる。しかし、その種類というのは品種である。しかも、その大部分は高品質、高収量などの経済性という枠内の品種の多様性であって、作物を生物としてみた場合の健全さの点では、作物が本来持っていた、すなわち、在来品種が持っていた数々の性質を失っている場合が多い。 21世紀の食糧生産を安定的に達成するためには、作物本来の多様性の復元と維持が重要な課題となるはずである。そして、遺伝子組み換え技術は生物の多様性増大に有効な力となり得るはずである。しかし、実際に採用されている作物は多様性低下の様相をおびている。