食品添加物や食品中の残留農薬の評価


 農水省のように、遺伝子組み換え食品を「従来の育種法の延長」による食品と位置づける考え方からは、安全性の議論や懸念は出てこない。遺伝子組み換え技術の食品への応用の危険性に対する危惧を薄め、安全評価や対策を軽視する働きをしている。

 懸念される安全性に関しては、1)遺伝子組み換え技術の安全性、2)環境への影響、3)遺伝子組み換え食品の安全性、などの面からの総合的な検討が必要である。すべてについて、すでに他の章で取り上げられているので、ここでは重複をできるだけ避けつつ食品安全学の立場から、遺伝子組み換え食品における安全の考え方や判断基準について考えたい。

1。安全の考え方

 そもそも安全であるとか危険だというのは、何を判断基準とすればよいのだろうか? 医薬品などでは、副作用というリスクがあったとしても、健康回復や命には替えられないと考えて使用する。車の場合は、事故のリスクと車を使うことの利便性のバランスで判断している。

 食べ物の場合、われわれ人類は採取、狩猟生活の太古から今日に至るまで、永い年月をかけてリスクを避け、より安全な食料を探し求め、命を長らえてきた。他に代替食料がある場合は、そのなかでリスクのより小さな食品を選択することが基本である。経済性や利便性があるからといって、健康や命にリスクがあってもよいなどとは決していえない。

 たとえば、食品添加物や食品中の残留農薬では、人の生命や健康に対する危険の度合い(リスク)を定量化することで安全性が判断されている。急性、亜急性の毒性、発癌性や次世代への影響などが評価され、影響がある場合、有用性(経済性や利便性など)を念頭にリスクを受け入れるかどうかが判断され、使用量や使用対象、残留量など基準が設けられている。

 遺伝子組み換え食品の場合は、食品添加物残留農薬と同じような考え方でリスク評価をするわけにはいかない。食べ物としてそのすべてを食することになるからである。したがって、遺伝子組み換え食品を総体としてより厳しい安全性評価の対象とする必要がある。

 遺伝子組み換え食品を利用するに際しては、先に位置づけたように、遺伝子組み換え食品を「今日突然に人類の前に姿を現した疑わしい食べ物」として、あらゆる面から安全ドIEを確認をする慎重さが望ましい。