オールドバイオ食品


 遺伝子組み換え食品を従来のバイオ食品と同列に置けるのだろうか。身近な発酵食品であるみそ、しょう油、チーズ、酒類などは、微生物の産する酵素を利用して製造、加工され、その歴史は8,000年前にもさかのばる。これら生産技術は、従来の品種改良などを含めオールドバイオと称されている。これに対して、近年著しく発展したバイオテクノロジーはニューバイオと呼ばれ、これら技術を応用して生産・加工された表7のようなバイオ食品がある。


農水省は、遺伝子組み換えによる農産物、食品などを上記のようなニューバイオを応用したバイオ食品の一部としたが、これは異なる観点から分類されるべきである。それは、農畜産物の生産や食品加工に使われた遺伝子自体に着目し、遺伝子が改変されたか、遺伝子が本来あるべき環境に置かれているか否かをキーワードに、組み換え食品の位置づけを判断すべきという観点である。

 オールドバイオ食品は、自然に存在する微生物を利用して製造・加工されている。遺伝子の置かれた環境も変わっていないし、改変もされておらず最も安定な位置にある。固定化酵素法を利用した、バイオリアクターも同じように位置づけることができる。

 組織培養や胚培養、葯培養、プロトブラスト培養などの技術では、遺伝子自体には手が加えられていない。また、遺伝子が置かれた環境の変化は小さく、比較的安全と判断できる。

 細胞融合、核移植などは、遺伝子自体には手が加えられていないが、遺伝子の置かれた環境は様変わりしている。また、体細胞の初期化をともなうクローン技術は、体細胞の初期化による全能化のように激しい遺伝子の機能変化と遺伝子の置かれた環境変化がある。経験の浅い技術であり、ましてや食品としての利用には慎重な安全性の評価が必要である。

 一方、遺伝子組み換え食品は、遺伝子が改変された微生物を利用している点で、オールドバイオ食品の対極に位置する。遺伝子が改変された段階で、本質的に遺伝子の働きが従来のものとは異なるし、本来遺伝子が作用する環境が変化している。従来の育種では同じ種間の交配であったものが、遺伝子組み換え技術では、異なる種の間で遺伝子組み換えが行われる点にも本質的な違いがある。

 このように、従来のバイオ食品と比較検討すると、改めて遺伝子組み換え食品が他と比べて、特異な位置に属することがわかる。

 さらに考慮しなければならないのは、時間的なファクターである。人類が食してきた食べ物は、人類進化の永い歴史のなかで安全性が評価されてきた。それに引きかえ遺伝子組み換え食品は、今日突然に人類の前に姿現したものである。全く異なったものとはいえないが、長い時間をかけて人類が安全性を確かめてきた従来のような食べ物とはいえない。先に触れたように、遺伝子組み換え技術上の問題点を抱えていることを考え合わせると、従来のバイオ食品とは本質的に異なる新規な食品と位置づけられるべきである。