食糧の確保と持続可能な農業

 地球サミット以来、地球的な規模の環境問題を克服するために、[持続可能な開発]が世界の合い言葉になっている。それは経済に代表される効率至上主義、ないしはそれを基礎となる自由競争礼賛が短期間の生産をあげたり、短期的な経済の発展をうながすことはあっても、その半面で、国際的・国内的な経済格差の増大が生じ、なによりも資源枯渇の恐れと環境破壊の現実をもたらした。

 農業においても、従来の経済効率至上の大規模機械化、化学肥料依存、農薬依存の農法が環境や農家の健康に重大な影響を及ばしてきた事実が反省され、持続可能な農業の実現が課題となっている。作物の遺伝子組み換えの技術そのものは、持続可能な農業の実現に結びつく可能性を潜在的に持ってはいるか、現在、広範に始まっている除草剤耐性、殺虫性などの技術は従来の経済効率至上の路線の上にあり、持続可能な農業に逆行するものといわなければならない。


 人口の増大と食糧不足がしばしば強調され、食糧難民の生活実態が報道されるが、現在の食糧の危機は農業生産の生産量の不足という農業技術によるものではなく、食糧の分配という社会的な制約に由来することを明確に認識しておく必要がある。食糧危機の回避がしばしば、国際、国内の政治の間違いを隠蔽するために利用されていないか確認していく必要がある。輸出のために農家の食糧生産を換金作物に強制的に転換させ、地域の気象に対応した伝統農業を肥料と農薬による近代農法にさせたために土壌を破壊し、砂漠化した例は有名である。

 そのことをふまえたうえで、食糧の確保の重要性にかんがみて、農業のあり方を考えるならば、経済的な効率の少々の低下を甘受しても、持続可能な農業の方向を追求しなければならないことは自明であろう。

持続可能な農業と遺伝子組み換え作物システム

 作物の遺伝子組み換え技術の本質は、持続可能な農業を追求する方向にマッチする可能性を持っている。

 しかし、現実の遺伝子組み換え作物の開発競争は、一例として除草剤の独占を目指して行われていることに象徴されるように、食糧生産における企業支配の競争のもとで発展せざるを得ない状況にある。これをコントロールするものは政府をおいてないが、政府そのものが企業の代弁を果たしているところに今日の不幸がある、といえよう。