コーデックス委員会における遺伝子組み換え食品表示の交渉


食料貿易は1995年に発足したWTO世界貿易機関)とWTO協定の枠組みによって国際的に規制されている。 WTO協定のなかに、食品や食品添加物などの規格・基準の取り扱いを定めた「検疫・衛生措置に関する協定(SPS協定)」がある。協定では、自由貿易を促進するためには、各国の規格・基準や手続きを国際的に同一に定めて運用するのがよいとする「ハーモニゼーション(整合化)」の概念が取り入れられた。輸入国が独自に厳しい基準を定めることは、高い関税障壁を設けたと同じことになり、自由貿易の発展を妨げることになるという考え方である。規格・基準の設定は、国連機関のWHOとFAOが合同して開催する「コーデックス委員会」で決定される。          ・I

 現在、コーデックス委員会では遺伝子組み換え食品の表示についての交渉が続いている。組み換え食品の安全性評価基準についてはWTOの場では合意には至っていない。したがって、組み換え食品の安全評価基準や表示は各国それぞれが決定している。合意に至っていないとはいえWTO協定の枠組みを無視した運営はできない。組み換え食品の輸入国である日本は、決定した安全基準の根拠が科学的に正当であると輸出国に説明できなければならない。独自に厳しい規制をすれば、輸出国からWTO提訴されることを念頭におかなければならない。

 ここ数年、日本政府は組み換え食品の認可を急速に進めた。農水省や厚生省によって定められた遺伝子組み換え食品の安全性評価基準や表示、さらには残留農薬基準の緩和など、組み換え食品の開発、輸出国である米国などの意向が色濃く反映されている。しかし、遺伝子組み換え食品の認可を慎重にした場合はどのような結果がもたらされたであろうか。

 予測される事態は、WTO提訴など特に米国との間の貿易摩擦激化であり、輸入食料から未認可の遺伝子組み換え作物が検出されることによる国内の混乱が考えられる。政府は、これら問題を回避しつつ、組み換え食品の安全を確保する選択をしたともいえる。しかし、第3の選択肢はなかったの
だろうか。

 WTO体制の枠組みのなかで、米国との貿易摩擦を強く念頭にしながら遺伝子組み換え食品の規制に対処する日本と、独自の判断を下すEU各国の落差が目立っている。EU各国は、早くから遺伝子組み換え食品に対して慎重な施策をとった。98年には義務表示を決めている。オーストリアは組み換えトウモロコシの輸入や、ナタネの流通をいち早く禁止した。イギリスでは殺虫剤耐性の組み換え作物を3年間販売中止する措置をとったり、学校などの公的機関での給食に組み換え食品の使用を禁止した。イタリア、フランスは組み換えトウモロコシの栽培を禁止し、スイスは組み換えトウモロシとジャガイモの栽培禁止を決めた。