胃、腸、肝臓で薬はどう変化するのか

胃、腸、肝臓で薬はどう変化するのか

鎮痛薬、抗生物質のルート

 日頃よく経験する具体例として、頭痛を治すための鎮痛薬、あるいは風邪をひいて細菌感染症の治療に使われる抗生物質などが、体内でどのように動いているか考えてみます。

 頭痛では、薬の作用部位、すなわち目的地は脳(中枢)です。したがって、鎮痛薬で頭痛をとるためには、薬が脳に到達しないことには効果がでないということになります。

 また、風邪をひいて飲んだ抗生物質は、薬が喉の細胞に到達しなければ、効かないということになります。

 今、多いケースとして、あなたが錠剤を鎮痛薬として飲んだ場合、あるいは抗生物質のカプセル剤を感染症の治療で飲んだ場合を考えてみましょう。

 

*胃では、何が起こっているか

 カプセル剤、錠剤を水、ぬるま湯で飲むと、まず、胃に入ります。

 カプセル剤は、胃でカプセルが溶け、なかの薬が溶けたします。錠剤は、崩壊剤という助剤の作用により、胃で砕けます。

 そして、両薬剤ともその後、飲む時に使った水、ぬるま湯が胃液と混ざり、胃の収縮運動で撹拌され、薬剤から薬が溶けたします。

 胃で溶けだした薬は、収縮運動によって胃から十二指腸、さらに小腸のほうへと運ばれます。

 胃から吸収されるのは、アルコールなどのごくわずかな化学物質だけです。

 ここまでは、よくおわかりだと思います。

*腸では、何が起こっているか

 一般に、薬の吸収は小腸で行われます。小腸は、胃に近い部分から十二指腸、空腸、回腸に分かれています。小腸の表面は栄養物質などを吸収するため、面積を広く確保するように「微絨毛」と呼ばれる、二重のヒダ構造になっています。そのため、人間の小腸の吸収全面積は、テニスコートの広さと同じくらいあります。

 小腸は、薬を吸収するための最大の臓器です。小腸に入った薬は、腸管を下っていきながら栄養物質と同じように吸収されます。

 吸収された薬は、まず、小腸の細胞に入ります。その後、小腸にきている静脈に吸収され、いったん、門脈と呼ばれる太い血管に集められます。そして、門脈血流に乗って肝臓に運ばれます。

 肝臓では、当然のごとく、異物に対する処理作用が働き、代謝が行われます。肝臓の細胞には無数の酵素があり、毎日働いています。

 そのなかでも、特に、薬の代謝に関与している酵素として、チトクロームP450と呼ばれる酵素の1群があります。略してCYPとも表されます。これらの薬物代謝酵素は、肝臓の細胞をすりつぶした時に得られる「ミクロソーム」と呼ばれる部分にあり、取りだして精製すると赤っぽい色をしているので、この名称がついています。

 薬が肝臓で代謝されてできた化合物を「代謝物」と言います。また、体は薬などの異物を水に溶かし、尿や胆汁の中に排出して処理を行います。肝臓で薬が代謝されてできた代謝物は、薬の状態の時よりも水に溶けやすくなっています。すなわち、薬を水に溶かして排出しやすくするため、肝臓は代謝を行っているとも言えます。

 一般に、肝臓の代謝によって生じる薬の代謝物は、薬として効果がないか、あるいは元の薬よりも効果が極めて少なくなっています。

 この肝臓で代謝を免れた薬が、肝臓の静脈、大静脈を経て心臓にいき、さらに心臓から循環血液に乗って全身に運ばれ、目的地の作用部位に届くのです。

 そして、頭痛の鎮痛薬は、作用部位である脳に運ばれて効果を発揮します。細菌感染の風邪の治療に使われる抗生物質は、喉の感染部位に到達して効果を発揮します。薬という消防車が走り回っている姿を想像していただければ、よくわかると思います。

 時に、ある抗生物質を飲んだ時、1~2時間ほどたつと、口のなかに少し苦みが感じられるようになることがあります。これは、小腸から吸収された抗生物質が循環血液中に入り、その後唾液中に排出され、苦いと感じているのです。この唾液中に排出された抗生物質も、喉の感染部位に対して盤国作用を示し、病気を治すのに一役かっていますから、あなたにとって大事な苦みとも言えましょう。

*薬の排出経路は二つ

 薬が作用部位に到達したら、そのままずっと永遠に効いてくれればよいのですが、そうはいきません。体にとって薬は異物なので、体は早く外へ排出しようとします。

 排出には二つの経路があります。一つは、前述した肝臓での代謝です。

 もう一つは、腎臓からの尿中への排出です。循環血液中に薬が入ったとたん、この二つの臓器による排出の仕事ははじまります。循環血液中から薬がこの2種のルートによって排出されはじめると、徐々に循環血液中の薬の濃度も下がります。循環血液中からの薬の減り方に呼応し、作用部位からも薬はどんどん抜けでていくことになります。

 その結果、4~5時間もすると、薬の効き目が落ちはじめます。しかし、腎臓機能障害の人は、薬の尿への排出の能力が弱く、循環血液中からの薬の減り方が非常に遅くなるので、薬の投与量にはくれぐれも注意しなければなりません。

◆薬は胃を通り、小腸から吸収され、血液の流れに乗って目的地の臓器へたどりつく。

◆薬剤はたくさん飲めば効くわけではない。体内の薬の濃度を適切に保つことが大切。

『薬の聞く人、効かない人』高田寛治著より