大腸で効かなければならない薬

 

 胃は消化管の入口からすぐのところにあるので、胃潰瘍などの胃の病気に対する薬は、患部に届きやすいと言えます。

 しかし、病気の部位が小腸よりも下の大腸にあるような病気、たとえば潰瘍性大腸炎だったりすると、薬剤を飲んだ後、小腸では溶けず、大腸に達して初めて溶けだして効く、という薬剤が必要になります。

 また、大腸ガンの治療にも、抗ガン薬が大腸に到達するまでは薬剤からでていかず、大腸で初めて薬を放出し、ガン細胞にアタックさせることができれば、薬による胃、小腸などへの副作用もなく、大腸ガンを効率よく治療することができると考えられます。

 このようなことから、胃、小腸では壊れず、なかに入っている薬を放出せず、大腸で初めて薬を放出するという技術が、世界中で研究、開発されています。

 胃、小腸には、消化液がふんだんにあります。したがって、消化管の収縮運動によって、食べ物や飲み物を下のほうへ押しやる作用が起こっても、圧力は直接薬剤にかかりません。しかし、大腸、特に上行結腸では水分が再吸収されるので、食べ物は固まりはじめ、内容物はいわゆる便のできるま削の、粥状のトロトロとした状態になります。

 また、消化管の表面にある上皮細胞は、約3~6日で脱落し、新しい細胞に生まれ変わっています。これは、肌を擦る時にでる垢と同じ原理です。肌だと手で擦らないと垢はでません。しかし、消化管は、食べ物で擦られて、毎日のように細胞がはがれ落ち、便と1緒にでます。3~6日の間隔で、消化管の細胞がどっと一挙にはがれるのではなく、細胞は、毎日徐々に入れ替わっています。したがって、私たちの便には大量に消化管の垢が入っているのです。

 余談ですが、便は茶色です。これは、茶色が正常なのです。茶色でなくなれば、病気が疑われます。なぜ、茶色かというと、循環血液中に含まれている赤血球の大切な成分の「ヘモグロビン」が古くなると、肝臓での代謝によって処理されて、化学構造が変わり「ビリルビン」となって、胆汁に大量に排出されます。このビリルビン由来の茶色が、便の色の源です。

 話をもとに戻しましょう。このように、上行結腸で水の再吸収が行われると、大腸に入った内容物は、上行結腸の入り口では粥の状態です。その後、上行結腸を徐々に上かっていくにつれて固まります。そうすると、大腸内の粘度は、胃や小腸に比べてはるかに高くなります。そこへ収縮運動によって大腸に圧力がかかります。その圧が便の源となる固形物にぶつかり、その結果、大腸内の固形物に対する圧力は、小腸に比べてはるかに高くなります。