薬剤師と医師の関係は?

 

Q 私は薬剤師になって10年になりますが、病院ではいつも医師の言いなりになっています。医師は薬剤師の存在を認めていないように思えることもあり、毎日、困惑しています。先生は、薬科大学の教授ですから、私たちの味方だと思うのですが、どうでしようか。(32歳 私立大学病院勤務 東京)

 患者さんは、病気を治すために病院へ行きます。

 医師は、患者さんから症状を聞き、各種の検査を行って診断を下します。診断は、いかに早く正確に病気の正体を見つけるかという作業です。

 医師がいち早く正しい診断を下せるようにするため、MR1、超音波診断装置など(イテク医療機器が次々と開発され、診断の精度は飛躍的に高くなっています。

 しかし、この最初のステップの診断を間違えると、いくらピカ新のよい薬剤を使っても、なかなか病気が治りません。

 したがって、医師の診断技術にかける意気ごみは、その後の治療よりも大きいと言えます。それほど診断は、医師にとって重要な仕事なのです。

 いっぽう、診断が下ると、医師は治療に移ります。治療には、薬剤を使う薬物療法、リ(ビリ用具や機械などを使う理学療法、カウンセリングの精拓療法、放射線療法、外科手術など種々の方法があります。

 数多くある治療法のなかで、薬物療法には薬剤が使われます。薬剤の調剤を担当するのが薬剤師です。

 薬剤の使い方をもっともよく知っているのは、薬剤師か? という問いに対する答えは、難しい問題です。

 入院ベッド数が100床ほどの病院でも、常時、置かれている薬剤の数は約1000種類もあります。このすべての薬剤について、幅広く知っているのは、確かに薬剤師です。

 しかし、特定領域の薬剤、たとえば不整脈の治療に使う薬剤を、患者さんの病状に応じてどのように使い分けるかということになると、循環器の専門医のほうがはるかに知識が豊富です。医師の医師たるゆえんは、なんといっても患者さんと直接向き合って、薬剤の微妙な効き具合を肌で感じとることができる点にあります。

 しかし、高脂血症の人が関節炎を併発し、整形外科の治療も受けるというように、複数の病気の治療を行わなければならないという場合があります。

 このような場合は、高脂血症薬と消炎薬とを併用するので、薬剤師の持つ幅広い知識が役立ちます。

 特に、新薬の激増とその薬剤との飲み合わせの副作用の増加に対し、薬剤師は、調剤業務以外の医薬品情報、患者さんへの指導、TDM業務など、臨床薬剤業務にも積極的に取り組んでいます。

 TDMとは、患者さんから定期的に採血を行い、循環血液中の薬の濃度を測定し、治療に使っている薬剤の投与量が、適切であるかどうかを管理するという業務です。

 日本でも生体肝移植が行われ、華々しい治療成績を上げています。海外からも患者さんが移植を受けにきます。移植手術は、大変な作業です。移植医とスタッフの人々の力は、想像を絶します。

 しかし、移植手術が成功しても、生体肝移植は成功したとは言えません。

 移植後の拒絶反応との戦いが待ち受けています。拒絶反応を抑えるため、免疫抑制薬のタクロリムス(商品名プログラフ)が使われます。

 免疫抑制薬と抗ガン薬は、健常被験者を用いる臨床第1相試験が免除されているほど強い薬です。サジ加減を誤ると、免疫抑制などの生命にかかわる強い副作用がでます。

 そこで、薬剤師は、タクロリムスのTDMを頻繁に行い、循環血液中のタクロリムスの濃度が治療濃度以上にならないように絶えず監視します。

 濃度が高くなりそうな場合は、医師に投与量を減らすように助言します。濃度が低くなる場合は、投与量を上げるように助言します。このように、薬剤師は移植医療現場の裏方として、縁の下の力持ちの役目を果たしています。

 したがって、医師と薬剤師とは切っても切れない関係にあります。医療の質を高めていくた
めには、両者は協力して仕事に従事しければなりません。