Q うちの病院では、よく点滴をします。ところが、アメリカではあまり点滴をしないと聞きました。日本人は、点滴好きなのでしょうか。それとも、日本の医療の問題なんでしょうか。(30歳 看護婦 北海道)

 

 日本人の薬好きをよく表しているのが、点滴でしょう。

 日米の医療事情を比較した中野次郎先生の著書『誤診列島』(ホーム社発行・集英社発売)にも、日米の点滴注射の比較が詳しく解説されています。

 それによると、アメリカの点滴の治療は、高血圧症、糖尿病、感染症など、とりわけ重症で緊急に処置を施さねばならない場合などに限られているようです。そして、点滴ミスによる医療過誤を防ぐ意味からも、どうしても点滴が必要な時以外は使わないようです。

 経験した人も多いと思いますが、病院で点滴を受けると「ああ、これで病気が治るんだ」とホツとします。この安堵感が、日本人にとって何物にも代えがたいのでしょう。

 しかし、点滴は薬剤を直接、循環血液中に投与するので、効果を確実に得ることができる反面、もし、誤って間違った薬剤を投与すれば大変なことになります。

 人工血液と消毒液を間違えて投与して患者さんを死亡させたり、薬剤を間違えたりの事故などが連続して起こっています。

 この種の事故には、問題点が二つあると考えています。

 一つは、看護婦さんが点滴の薬剤を投与することが多いということです。しかも、その看護婦さんがオーバーワークぎみなのです。あまりにも多くの患者さんの世話をしているため、当直明けなどのちょっとした不注意で大事件が起こります。

 欧米の先進国に追いつけ追い越せとばかりに、高度経済成長期に日本人は一生懸命働き、今日の豊かな社会を築き上げました。

 しかし、世界の先進国と比べて、本当に日本は豊かになったでしょうか? 残業は? 家は広い? ゆとりのある暮らし?

 看護婦としての専門教育を受け、高度な医療技術を身につけている看護婦さんが、ゆとりを持って病院勤務できているでしょうか。

 1999年度の「誠実性と倫理観に関するギャラップ社の世論調査」の結果で、1980年から続いていた1位の座が、薬剤師から看護婦に移ったことが明らかになりました。アメリカでは看護婦がもっとも信頼される職業になっています。

 現実の社会を見ると、子供の教育費や養育費が非常に高額なため、子供を多く持たない夫婦も増えてきました。

 いわゆる、少子化という社会現象が起こっています。

 自動車を購入したために、庭がなくなってガレージに変身しています。労働環境を整備して看護婦さんが3~4人の子供を育てながら仕事にも従事できる、ゆったりとした医療体制を早く築かなければなりません。

 ゆとりといえば、日本に特有のワンルームマンションがあります。かつてアパートが、ウサギ小屋と揶揄された時期もありました。

 住居は一日の労働を癒し、翌日の勤労の意欲をかきたてる場所です。せめてもう少し豊かなスペースが欲しいものです。

 スペースが広がれば、余裕の空間ができ、新たに家具やオーディオなどの電化製品を置いてくつろぐことができます。景気もきっとよくなるはずです。

 ところが、バブル崩壊後の現在も、ウサギ小屋よりもさらに狭いワンルームマンションが建築分譲されています。

 このままワンルームマンションが増え続けてもよいのでしょうか。

 ワンルームマンションに住む若者の数は、少子化の影響で急速に減っていきます。入居費があまり変わらなければ、新しいワンルームマンションへ殺到していき、築後10~20年の古いワンルームマンションの入居率は激減するでしょう。

 さらに、老朽化したからといって取り壊しても、その建築廃材の廃棄場所がありません。

 国民共有の資産、人類共有の資産と考え、長く使用できる建物を造らなければなりません。話がそれましたが、二つ目の問題点は、点滴薬の調製は看護婦さんの仕事ではなく、本来は薬剤師の業務だということです。

 従来、薬剤師は、薬剤部での調剤業務に追われ、点滴薬の調製などの臨床業務にまで十分に手をつくせない環境にあります。抗生物質と生理食塩水などとの混合、消毒液の希釈は、本来は薬剤師の業務なのです。

 しかし、薬剤師の人数も少なく、十分に手がまわっていない医療機関が多く、薬剤師の仕事まで看護婦さん、技師さんの業務に上乗せされているところが多いのが現状です。

 1999年2月、指の関節リウマチの手術を受けた58歳の女性が、手術の翌日に誤って消毒液を点滴され、死亡するという医療過誤がありました。非常に気の毒な事故です。

 事故だった、ということですましては医療の進歩はありません。人間は、誰でも過ちを犯す可能性を持っています。

 一度犯した過ちを二度犯せば、それはその人や組織に問題があります。

 しかし、一度事故が起きた時点で作業の流れを点検し、改善するべきことを早急に改善するのが人間の英知です。このような不幸が二度と起こらないように、すべての人々がゆとりを持って働ける社会を、日本人全員で早く築き上げていきたいものです。