点滴は、投与速度が問題

 

 点滴は、本当に効くの? 単に保険の点数かせぎじやないの? と聞かれることがあります。

 この問いに対する答えは、その投与速度によりけりだと言うことができます。

 同じ薬を2種類の点滴速度(遅い場合と速度を2倍に上げた速い場合)で投与した場合、循環血液中における薬の濃度の推移を示したものです。

 点滴というのは、ご存じのように、病院でベッドに横だわった状態で受けます。その時、点滴バッグが天井から吊るされ、腕の静脈と点滴バッグの間に、薬液量を調節するアジャスターがついています。

 ホクホクと速く落ちる場合と、ホックホックと遅く落ちる場合があります。それは、このアジャスターで調節しているのです。この点滴の速度を速くすればするほどよく効く、と思われがちです。しかし、そうではありません。

 点滴で薬を体に入れると、体が薬を処理する速度と点滴で薬が体に入ってくる速度とのかねあいにより、循環血液中の薬の濃度が決まります。

 この時、薬の処理には、肝臓での代謝、腎臓での尿中への排出がつねに働いています。点滴をはじめると、循環血液中の薬の濃度は徐々に上かっていき、やがて「定常状態」と呼ばれる一定の状態に達します。

 点滴速度と体の薬の処理速度とが釣り合った状態が定常状態です。点滴をはじめてから循環血液中の薬の濃度が、この定常状態に達するまでに必要な時間は、体が薬を処理する速度によって決まります。

 症状が激変しない限り、体が薬を処理する速度は変わらないので、点滴速度をいくら速くしても定常状態に達する時間は変わりません。変わるのは、定常状態の循環血液中の薬の濃度の高低だけです。

 すなわち、点滴速度を速くすればするほど、定常状態の循環血液中の薬の濃度は高くなり、点滴速度を遅くすればするほど、定常状態の循環血液中の薬の濃度は低くなります。

 通常、点滴をはじめてから1時間もすれば、薬が治療濃度になるように考えて、点滴速度を調節するので効きます。もし、この点滴が1時間以内に終わってしまうと、この薬は効かないということになります。

 生きるか死ぬかの瀬戸際の状態で、救命処置室に運ばれてきた人の場合は、悠長なことはできません。即、循環血液中の薬の濃度を治療濃度にまで上げなければなりません。そのため、点滴開始と同時に、同じ薬を静脈内注射します。