ソフトカプセル

 

 いっぽう、手で掴んだ時、やわらかくブヨブヨとしたカプセル剤もあります。鼻炎薬などの大衆薬として売られている薬剤などです。

 このようなカプセルを「ソフトカプセル」と呼びます。そもそもは1980年代の第丁沢健康食品ブヽ‐‐ムの時代、ビタミンEのソフトカプセルがヒットしました。

 その後、用途が拡がり、胃潰瘍薬のゲファルナート(商品名ゲフアニールなど)、心臓病薬のユビデカレノン(商品名ノイキノン)などのソフトカプセル剤が作られています。

 ソフトカプセルの主原料も、やはりゼラチンです。しかし、ゼラチンだけでは硬いので、やわらかくするためにグリセリンがかなり加えられています。そのため、ソフトカプセル剤は他のカプセル剤よりも、湿気による影響を強く受けます。

 特に、日本の梅雨時は、ソフトカプセル剤を絶対に室内に裸で置いてはいけません。形が変わったり、グニャッとやわらかくなりすぎたり、ひっついたりします。乾燥剤を少し入れた、海苔の空き缶などで保管するようにしてください。徐々に溶ける薬剤(徐放性薬剤)の開発ふつうの錠剤、カプセル剤は、飲んだ後、薬が速やかに溶けたします。しかし、循環血液中の薬の濃度が急激に上昇すると好ましくない場合や、最低治療濃度以上の薬の濃度を長く維持させ、薬の効き目を長続きさせたい場合は、「徐放性薬剤」が使われています。

 徐放性薬剤とは、薬剤から薬が溶けだす速さを抑え、飲んだ後、12~24時間かけて、徐々に薬を溶けださせる、というタイプの薬剤です。たとえて言えば、循環血液中の薬の濃度をグラフにすると、死火山の代表、中国山脈のようななだらかな形を示します。

 具体的には、徐放性の風邪薬のカプセル剤(商品名ダンーリッチ、コンタック600など)、抗ぜんそく薬のテオフィリン(商品名テオドール、テオロングなど)があります。

 徐放性薬剤は、飲み薬だけかというとそうではありません。驚くことに注射薬にも、徐放性薬剤が発明されています。

 それは、前立腺ガンや子宮内膜症の治療に使う、リュープリンという商品名の薬剤です。

 この主薬である酢酸リュープロレリンは、一種のホルモンです。この薬は、脳下垂体への性ホルモンの分泌を抑え、前立腺ガンの成長を妨げる効果を持っています。

 ホルモンなので、この薬は蛋白質の一種になります。単なる注射薬として前立腺ガンの人の皮下に投与しても、すぐに体の蛋白分解酵素の作用でアミノ酸にまで加水分解され、効果がすぐ消えてしまう、という最大の難点がありました。

 最初に、アメリカで発売されました。しかし、前立腺ガンの人は毎日、自分で注射しなければならないという欠点があり、さらに、アメリカでは毎日の自己注射は保険でカバーされないということもあって、あまり評判がよくありませんでした。

 そこで、注射した後、簡単に加水分解されず、しかもゆっくりと主薬のリュープロレリンを、体内に放出する薬剤が作られました。前立腺ガンの人にとって、極めてありかたい薬剤技術が開発されたのです。

 その技術というのは、体内で徐々に溶け、なかに入っている主薬をゆっくり放出するという機能を持った、極めて小さな球状(マイクロカプセル)の薬剤を使った製品です。

 この主薬をマイクロカプセルに入れるのに使用されたのが、「ポリ乳酸樹脂」と呼ばれるポリマー(高分子化合物)です。ポリ乳酸樹脂は乳酸とグリコール酸からできている複合ポリマーで、体内で自然に分解され、究極的には水と炭酸ガスになります。極めて安全性の高いポリマーです。

 リュープリンは、このポリ乳酸樹脂を使って、主薬のリュープロレリンを直径約O・02mmの球状の玉に閉じこめたものです。

 蛋白ホルモンのリュープロレリンが微小カプセルに封じこめられているので、注射で体内に投与しても、蛋白分解酵素ですぐには分解されません。 この微小カプセルを作るポリマーのポリ乳酸樹脂は、その原料の乳酸とグリコール酸の配合を調節することで、1ヵ月にわたりカプセルが徐々に壊れるという、素晴らしい徐放性薬剤ができました。

 この薬剤のおかげで、前立腺ガンの患者さんは1ヵ月に1回、病院に行って注射するだけでよくなりました。

 この薬剤を開発したのは、日本の武田薬品工業です。今や世界的なヒット商品になっています。

 このポリマーの用途は、現在ではさらに拡かっています。

 たとえば、骨ガンの手術で顎の骨を削り取った人に、このポリマーで作った多孔性の人工顎を埋めこみ、その後、皮膚を縫って普段どおりの生活をしてもらいます。そうすると、手術後に骨の源となる細胞が徐々に人口顎に侵入し、約1年で手術前の正常な顎の状態が再生できる、というレベルにまでなっています。

 専門用語で「再生医学」「医用工学」と呼ばれる、(イテク医療の一分野です。私たちにとって、極めて恩恵の高いポリマーといえます。

 このポリマーは、さらに買い物袋、洗濯バサミなど、日常生活で繁用されている、ほとんどすべてのプラスチック製品の代替になります。

 使用後、土に埋めておけば、1年後には土中の細菌によって分解されます。地球環境に優しいポリマーなので、焼却時のPCBによる環境汚染の心配もありません。1日も早く、このような良質の製品が日常生活に入ってきてほしいものです。

 私たちが快適な暮らしをするために、廃棄物を後世に残すことは許されない時代になりました。多少のコスト負担をしても、地球に優しい素材の製品を使いたいものです。

◆包装から取りだしたカプセル剤は、保管に気をつけて。

◆カプセル剤は口に含んだ後、顔をやや下に向けて飲みこむと、飲みやすい。