放出時間制御型の大腸デリバリーカプセル

 

 食後に薬剤を飲んだ後、胃、小腸を通って大腸にいく時間は、人間では約5時間であることがわかっています。したがって、薬剤を飮んで4時間は壊れず、5時間たってから壊れて薬を放出するカプセルを作れば、大腸へ薬を届けることができるだろう、と考えました。そのカプセルの概要を示したのが左図です。これは、二重カプセルになっています。

 二重カプセルの外側、内側のカプセルボディーは、ともに水に溶けないエチルセルロースで作られています。まず、外側のカプセルボディーの底に吸水用の細かい穴をあけます。さらに、内側のカプセルボディーと外側のカプセルボディーとの隙間に、水を吸ってふくらむ性質のポリマーを入れます。このポリマーも木材の成分である、セルロースから作ったものです。従来は、単なる崩壊剤として、錠剤に混ぜて使うくらいの用途しかありませんでした。

 内側のカプセルに薬を入れます。さらに、もう一つ仕掛けがいります。それは、カプセルのキャップです。このキャップは、市販のゼラチンカプセルの内側を、水に溶けないポリマーのエチルセルロースで、30~80仰の厚さにコーティングします。キャップと外側のボディーとが離れないように、しっかりとひっつけます。

 こうして作られたカプセルに、潰瘍性大腸炎薬を入れます。この薬剤を飲むと、胃、小腸を通過していく時、水分や消化液を吸い、カプセルに入っている膨潤剤がふくれます。そうすると、内側のカプセルのボディーを押し上げる力がでます。

 薬剤を飲んだ後、カプセルのキャップは10~15分でゼラチンが溶け、キャップが剥きだしになります。これは、水に溶けないポリマーで作られているので溶けません。

 しかし、膨潤用のポリマーの押し上げる力がだんだん強くなると、この圧力に耐えきれなくなり、キャップの膜が壊れます。これは、ロケットが格納庫の天井を突き破って飛びだしていくようなものです。

 薬剤を飲んだ後、大腸に届く5時間後に、内側のカプセルが飛びだす条件を探しました。それは、キャップの水に溶けないポリマーのコーティングの厚さを、約70部に設定すればよいことがわかりました。ガラスの棒にエチルセルロースの液をつけては乾かし、つけては乾かすということを繰り返し実験しました。しかし、うまくできませんでした。ところが、人間は「しなければならないこと」あるいは「したいこと」を持って生活していると、ある時ふとアイデアが浮かんでくるものです。

 アイデアは、偶然でてくるものである!

 ある日、偶然気づいたのです。カプセルのキャップの内側を、エチルセルロースでコーディングしてみました。まず、カプセルのキャップ部分を上に向けて立てます。その中に水に溶けないポリマーの溶液を入れ、半日から1日そのままにしておくと、液が蒸発して飛んでいき、水に溶けないポリマーの薄い膜のコーティングができたのです。

◆薬は体内の毛細血管内を走り回り、患部を探し当てると、そこにもぐりこむ。

◆薬の効果を速くだしたい時は、空腹時に薬を飲むとよい。

◆薬剤を飲んだら、右脇腹を下にして、横になると効き目が速い!

◆胃で溶けてはいけないように工夫されて作られている薬剤もある(腸溶性薬剤)。

『薬の聞く人、効かない人』高田寛治著より