同一の農耕地において前後の作の間での雑草化


 同一の農耕地においても、前作の遺伝子組み換え作物が後作の雑草となる可能性がある。前作の収穫時にこぼれた種子が後作のなかで発芽する可能性は高い。たとえば、日本では冬作としてナタネを栽培し、その後に夏作としてダイスを栽培する組み合わせが考えられるが、この際にもある除草剤に抵抗性のある遺伝子組み換えナタネは、その除草剤を使うかぎり、後作の雑草としての能力を発揮するだろう。

農耕地内外の野生植物への遺伝子の流出

 農耕地は半自然であって人里植物と呼ばれる種々の野生植物が生育している。そのなかの作物の栽培に邪魔な植物を雑草として駆除の対象としているが、雑草以外の野生植物も少なくない。これらの人里植物のなかには作物と系統上、近縁な種も少なくない。虫や風などによって遺伝子組み換え作物の花粉が、人里植物のなかの近縁な種に輸送される機会は卜分にある、と考えられる。

(1)自然界における種の維持

 自然界の野生の植物の間でも、種間や属聞において交配が全くないとは考えられない。もちろん、植物の側では他の種との交配を避けるしくみを発達させてはいるか、授粉の手段を虫や風などに任せている多くの植物においては、往々にして花粉を他の種に輸送することがあるようだ。他の種の花粉がメシベの柱頭についても花粉管を伸長させないしくみもあるが、その間隙をぬって授精に及ぶケースもあり得るであろう。

 しかし、自然界においては異なる種の間の交配植物、すなわち雑種がほとんどないことも事実である。このことは雑種の種子が形成されても、発芽に失敗するか、発芽しても次代の種子を作れないなどの自然淘汰の働きによって、消去がなされているものと考えられている。言い換えれば、そのようにして生物の種の維持が保証されているのであろう。

(2)農耕地における雑種の保存

 農家はしばしば農耕地において新しい品種の出発点となるような「変わりもの」を発見してきた。それらの変種は突然変異によって作られたものもあったが、他の植物との交配によって生じたものも少なくなかった。このことは農耕地は雑種の形成が起こりやすい場所と考えてよいであろう。おそらく、農耕の管理が自然淘汰の働きを低めているのではなかろうか。

 それは、遺伝子組み換え作物の花粉が人里植物に輸送されて生じた雑種にも、あてはまるであろう。