判断基準としての「実質的同等性」


 組み換え食品の安全性を判断する基準は、国際的にどのように考えられているのだろうか。OECD経済協力開発機構)のバイオテクノロジー専門家会合で、遺伝子組み換え食品の安全性を評価する判断基準として「実質的同等性」の概念が提起された。「新しい食品を人間が消費するときの安全性を評価する場合、既存の食品を比較の基準として使用することができる」とする考え方である。FAO(国連食糧農業機関)/WHO(世界保健機関)合同専門家会議でもバイオテクノロジーと食品の安全性がテーマとされ、「実質的同等性」の詳細な検討が行われた。先の表現をさらに具体的に言い換えれば、「導入する遺伝子が作り出す蛋白質の安全性を確認し、また組み換え作物と元の作物を比較して食品の安全性や環境影響などの諸項目で成分や性質に変化がなければ、安全性について元の作物と同等である]となる。「実質的同等性」の概念は、厚生省などの考え方の基礎となっている。

  「実質的同等性」の考え方は一つの方策ではあるが、既存の作物を判断の基準に置くために、安全性確認の対象や範囲、また成分や性質の変化の程度など判断基準にあいまい性が残ることになる。また、既存の食べ物と実質的に同等とする限り、組み換え食品自体の安全性を評価すべきとする根拠が希薄になるなど問題点を残している。コーデックス委員会国際食品規格委員会)でもヨーロッパ各国から実質的同等性についての批判が出され、その再考が求められている。


 遺伝子組み換え技術によって生産された食品添加物を初めて認可した。以来今日に至るまで、遺伝子組み換え技術を従来のバイオテクノロジーの延長として捉えてきた。そのうえで、「遺伝子組み換え技術そのものが危険であることを示す科学的根拠はないが、応用経験がない」とする認識に立ち、安全性評価の指針を導入し、遺伝子組み換え食品の安全性を確保するとしてきた。これまでの「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「ガイドライン」とする)は91年に定められた「組換えDNA技術応用食品の安全性評価指針」が96年に修正されたものである。

 しかし、「ガイドライン」による安全審査体制をよしとし、表示を不要とする厚生省の姿勢は、世論の厳しい批判を受けた。 99年になって厚生省は、食品衛生法の規格基準を改正し、「ガイドライン」に代わる審査基準を定めて、安全審査を法的に義務化する方針へ方向転換した。食品衛生調査会(バイオテクノロジー特別部会)は、99年12月に厚生大臣から諮問された「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性審査の法的義務化」についての審議結果を答申した(2000年4月)。新たな法律の制定や食品衛生法の一部改正などではなく、規格基準の改正により対応することが適当であるとされた。5月には答申にしたがい食品衛生法の規格基準が改められ、2001年4月からの施行が決まった。その概要は次のようにまとめられる。