骨髄腫の臨床像

臨床像

 1.年齢

 高齢者,特に60~70歳で発症することが多い。

 2.初発症状

 骨痛,特に腰痛,背部痛,胸部痛を初発症状とするものが多い。骨折を機に本症が見つかることもある。最近では,健康診断で血沈の亢進,蛋白尿,貧血,あるいはM蛋白血症が見い出され,本症が診断される症例が増加している。

 3.骨髄腫細胞

 骨髄脯細胞は骨髄が主な増殖の場であり,骨髄中に大小不同や多核の病的な形質細胞が増加する。多発性に骨髄腫病変を認めること(多発性骨髄脯)が多いが,病変が局所骨に限られるもの(孤立性形質細胞腫)や髄外に腫瘤形成するもの(髄外性形質細胞腫)もある。稀に末梢血中に骨髄腫細胞を認めることがあり,形質細胞性白血病という。正色素性貧血を伴うことが多く,末梢血塗沫標本で赤血球連銭形成がしばしばみられる。

 4.M蛋白

 形質細胞は免疫グロブリン産生細胞であって,生体の感染防御に重要な役割を果たしている。骨髄腫では,血清及び尿中に多量のM蛋白が出現,血清正常多クローン性免疫グロブリンが減少,免疫グロブリン以外の血清蛋白特にアルブミンが減少する。骨髄腫は,産生される免疫グロブリンのクラスによりlgG型(50~60%), IgA型(20~25%), IgD型(5%), IgE型

 (まれ)に分類される。その他,尿中ペンスジョーンズ蛋白(BJP)だけが認められるBJP型(15~20%), M蛋白が認められない非分泌型(1%)がある。本症では正常免疫グロブリンが減少し,M蛋白には一般細菌に対する抗体がないので,感染症に罹患しやすい。

 5.骨病変

 骨髄に増殖した腫瘍細胞は,次第に骨皮質を融解,破壊する。X線写真で特徴的な骨の打ち抜き像(punched out lesion)をみ,しばしば病的骨折を起こす。脊椎圧迫骨折や腫瘍の硬膜外浸潤をきたすと腰痛,下肢筋力低下,知覚鈍麻から対麻痺に至る。

 6.腎障害

 BJPからなる尿細管円柱が遠位尿細管や集合管を閉塞することにより,腎機能障害をきたす。骨髄腫腎と呼ばれ,腎不全に陥ることもしばしばある。

 7.その他

 高カルシウム血症,アミロイドーシス,高粘度症候群,血小板減少やM蛋白の凝固因子障害による出血傾向などをみる。

 骨髄腫は形質細胞が腫瘍性に増殖する疾患である。単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)の血中や尿中における増加と,骨融解病変を特徴とし,予後は不良で,多くは1~5年で感染症,腎不全,出血をきたし死亡する。骨髄腫は高齢者に多く,進行も比較的ゆっくりなことから,治療は寛解を目指してというより,病勢の進行を抑える方向で長く行われてきた。しかし,最近強力な多剤併用療法が高率に完全寛解をもたらすことが報告され,骨髄腫の治療は完全寛解を目指した治療に変わりつつある。以下,骨髄腫の臨床像と治療法について概説する。