進行性多巣性白質脳症

 I 臨床的特徴

 1.症状 免疫抑制を引き起こす基礎疾患、すなわち白血病、ホジキン病、結核、サルコイドーシス、腎移植後の免疫抑制剤の投与など、また最近ではAIDSの患者に発症することが多い。初発症状はボンヤリしている、健忘、痴呆、人格変化などの精神障害、単麻痺あるいは片麻痺、半盲などの視野障害などである。その後、楫音障害、嚥下障害、運動失調、感覚障害、てんかん、失語、失行、失認、ゲルストマン症候群、バリント症候群など多彩な神経症候が出現してくる。発熱や髄膜刺激症状は見られない。発病後は進行性の経過をとり、痴呆、意識障害、四肢麻痺、尿便失禁状態となり、6か月以内に死亡する例が多い。一部の症例では一時的に症状が改善することがある。

 2.病原体 パポーバウイルスに属するJCウイルスが原因であり、患者脳よりこのウイルスが分離同定されている。一部の症例はSV40ウイルスによる。多くの成人はJCウイルスに対する血清HI抗体を持つが、免疫不全を生ずる基礎疾患がある場合に脳内に感染が拡大して発病する。病理学的には、主に大脳白質に多数の脱髄斑が形成される。脳幹や小脳も侵され得る。炎症反応は見られない。電顕では乏突起膠細胞の核内に多数のパポーバウイルス様粒子が見られる。

 3.検査 JCウイルスに対する抗体は多くの成人で陽性であり、患者と健康成人の抗体価に有意の差はない。脳波は局所性あるいは全般性に徐波が見られる。CTでは脳白質に造影剤で増強されない低吸収域が見られる。生検脳にて脱髄斑、JCウイルスの粒子や抗原の存在が証明されれば診断は確定する。

 II 疫学的特徴

 1.発生状況 極めてまれな疾患であり、例えばわが国では毎年1例前後の報告が見られるに過ぎなかった。しかし、 AIDSにおいては数%の症例に本症が発病することが報告されており、 AIDSの蔓延とともに本症も増加することが予想される。

 2.感染源 尿と考えられている。

  3.伝播様式 経口感染すると考えられている。
 4.潜伏期 若年成人の抗体保有率が高く、40~60歳台の発症が多いことから数十年の潜伏期があると思われる。ただし若年発症例もある。
 5.伝染期間 PML患者からの伝染は知られていない。
 6.ヒトの感受性 血清Jcウイルス抗体を有し、免疫抑制状態にあるもののごく一部のみが本症を発症する原因は不明である。

 予防対策

 本症が伝染した例は知られておらず、隔離などの特別な対策は必要ない。有効な治療法はない。