頭痛の薬がなぜ、胃のなかに入って効くのか

 

薬は循環血液中を走る消防車

「薬物動態学」

 朝から頭痛がする。薬箱を探すと、頭痛薬が見つかった。あわてて、飲んで、しばらくしたら、頭痛がピタツとおさまった……。

 こんな経験をされた人も、多いことと思います。しかし、その後に、ふと素朴な疑問がわいてきたことがありませんか。

 頭が痛いのだから、頭部に頭痛薬の入った塗り薬を塗ったり、貼り薬を貼ったりするのならわかります。でも、なぜ、水と一緒にいったん胃のなかに流すのでしょう。そして、胃のなかに入った頭痛薬が、どうやってガンガンする頭部の患部に到達し、ピタツと効くのでしょうか。

 また、風邪をひいて、扁桃腺炎になり、唾も飲みこめないほど喉が痛い時に、薬剤を飲むと、薬剤は明らかに喉を通り越して、胃に入ります。

 喉にシューツと吹きかける薬剤ばかりならよくわかりますが、水と一緒に飲む薬剤の場合どうやってその薬は喉までもう一度戻ってくるのか、不思議だと思いませんか。

 結論から先に言いますと、薬剤を飲んだ後、ほとんどの薬は胃を通り、小腸から吸収され、循環血液中に入ります。そして血液の流れに乗って体をくまなく巡り、ようやく目的地の臓器などにたどりつき、効きはじめるのです。

 ですから、扁桃腺炎の飲み薬の場合でも、喉をいったん通過しても、実際に効くのは循環血液のなかに薬が流れこんでからなのです。

 薬が作用しなければいけない目的地(作用部位と言う)に到達するためには、飲み薬の場合は、この長い道のりを必ず通らなければなりません。ここで言う目的地は、先の例で言えば、頭痛の場合は頭(脳)、風邪の場合だと上気道(喉)になります。

 ですから、痛み止め、風邪薬などを飲んだ時の経験でもわかるように、薬剤は、飲んでから効くまでに少し時間が必要なのです。つまり、薬が効くためには、薬剤を飲んだ後、体内で薬が長いミクロの旅を経て、その目的地にたどりつき初めて薬の効果を発揮する、そのための時間がかかるというわけです。

 では、なぜ、循環血液中を流れる薬に、ここが目的地だとわかるのでしょうか。

 ちょっと無理なたとえかもしれませんが、薬を消防車だと考えてください。要請があって、出動し、血液という名の道路を走り抜ける消防車は、走りながら、火事で点滅している地点(患部の細胞の受容体)を見つけます。そして、その細胞の表面から、場合によっては細胞のなかに、吸いこまれるように入りこんで消火作業をする(薬を効かせる)というわけです。

 小腸から吸収された薬は、血液中の薬の濃度をある程度高めたまま、体内を循環しているうちに、目的地で効果を発揮すると言ったほうがいいでしょう。

 このように、薬が「どの経路を通り、どのようにして目的地に到達するか」「目的地に到達後、どのルートを通って下山するか」という、体内での薬の動きついて研究する、こうした学問を私たちは「薬物動態学」と呼んでいます。

『薬の聞く人、効かない人』高田寛治著より