糞線虫症 Strongyloidiasis

小腸の粘膜内に寄生世代の雌成虫が寄生する線虫感染症

 症状は感染幼虫の経皮感染時、幼虫の肺の通過時および寄生世代雌成虫の小腸粘膜内寄生時に見られる。感染幼虫の経皮感染時に見られる症状は皮膚炎によるもので、局所の発赤、丘疹などである。肛門周囲に自家感染が起こったときも皮膚炎を見ることがある。幼虫の体内移動に際しては必ず肺を通るが、寄生虫体数が少ないときは特に症状を認めない。しかし、多数の幼虫が集中すると出血性肺炎となることがある。本感染症の主症状は雌成虫によるもので、症状の発現は虫体数にもよるが、発症すれば慢性の反復性下丸腹痛、発熱、貧血、白血球増多などを認める。これが継続すると栄養障害、浮腫なども現れる。最大の特徴はステロイドなどによる免疫不全状態、栄養状態の悪化など種々の原因によって自家感染が起こることである。これは無症状で推移し、日和見感染であったものが発症するという例が最近しばしば見られることと関連している。また成虫の粘膜内感染とともに大腸菌などによる細菌感染症の併発がしばしば見られており、臨床的には髄膜炎、敗血症等として現れる。病原体は糞線虫Strongyloides stercoralis。本症の検査は糞便内にラブジチス型の幼虫を検出し、それを濾紙培養法などによってフィラリア型に発育せしめ、特徴的な形態的所見を得ればよい。この方法では普通、反復検査が必要で、かつ、濾紙培養のときは3本程度の試験管を用いて実施する方がよい。最近さらに効率がよいといわれる寒天平板法も開発されている。これは寒天平板上での仟虫の独特な移動のあと(這痕)に注目して観察すると、高率に幼虫が検出できるという所見に基づいている。血清学的方法も補助的には応用されている。

 糞線虫は世界中の熱帯、亜熱帯に広く分布しており、感染率も高いが、ほとんどは無症状の日和見感染として推移している。わが国においては、以前より九州、沖縄など南日本を中心に見られていたが、上記の寒天平板法が導入されて検査した結果、沖縄では5~10%程度の感染があることが判明した。同地区では成人T細胞白血病(ATL)との高率の合併が見られており、糞線虫との因果関係が注目されている。感染源としては糞線虫が主にヒトに感染するので動物はあまり重要ではない。糞線虫の成虫は上記のように小腸粘膜内に存在し、単為生殖によって産卵する。虫卵は直ちに孵化し、ラブジチス型幼虫となって糞便中に排出される。ラブジチス型幼虫は外界で種々の要因により2種類の発育ルートをとる。1つの直接発育と呼ばれるもので、湿潤土壌にて2回脱皮し、感染能力を有するフィラリア型仔虫となりヒトに経皮感染する。他方は間接発育と呼ばれるもので、ラブジチス型はそのまま4回脱皮し、自由生活世代の雌雄成虫となる。交尾後雌成虫は産卵し、次いで卵の中にラブジチス型幼虫が形成される。このラブジチス型幼虫はラブジチス型の成虫となって同様のサイクルをつくるが、一部フィラリア型の仔虫に変わり、上記同様経皮的にピトに感染することになる。皮膚を穿通した後、血流またはリンパ流れに乗って肺に達し、気管、咽頭、上部消化管を通って小腸に至り、2回脱皮した後粘膜内に侵入し成虫となる。また、腸管内でフィラリア型幼虫が形成され、自家感染を起こした場合は成虫の数が増加するので、症状を増悪させる原因となる。フィラリア型幼虫感染後成虫となるまで約20日を要するが、基本的に糞線虫症は日和見感染として存在しているため明確な潜伏期はない。

 本線虫も土壌伝播線虫の一種であるので予防には糞便の管理を十分に行うことが必要で、それとともに集団駆虫を実施するのがよい。現在治療にはサイアペンダソール、メベンダゾールを用いているが副作用も見られる。最近はアイバメクチンが注目されている。