レボチロキシンの過剰処方

 

レボチロキシンナトリウム( levothyroxine sodium )は高レベルの甲状腺刺激ホルモン『サイロトロピン』(甲状腺機能低下の兆候)を呈する患者の甲状腺機能を亢進させるため、その処方が過剰治療を引き起こし得ることが、イギリスの論文により明らかになりました。

甲状腺機能低下症(hypothyrodism)は欧米でもっとも一般的な慢性疾患の一つであることから、レボチロキシンの処方件数がアメリカやイギリスで増加しています。

甲状腺機能の検査はどんどん普及しており、多くの疾患の発見につながっていますが、甲状腺治療薬の過剰処方に寄与する追加要因はサイロトロピン濃度の基準値低下である可能性があります。処方件数の増加の原因が、治療開始の判断要素である基準値の低下である場合には、治療の効果はより小さくなります。それどころか有害になることもあるでしょう。過剰治療は骨折や心房細動( atrial fibrillation)のリスク増加に関連しているそうです。

イギリスのCardiff医科大学のPeter N. Taylor氏らは、レボチロキシン治療前後におけるサイロトロピン濃度の推移を調査しました。研究者は英国臨床研究データリンク(United Kingdom Clinical Practice Research Datalink )を用いて、2001年から2009年にかけてレボチロキシン処方を受けた患者52,298名を特定しました。

American Thyroid Association のガイドラインでは、10 mIU/L以下のサイロトロピン濃度や、甲状腺機能低下、甲状腺抗体陽性、アテローム性動脈硬化(atherosclerotic cardiovascular disease)、心不全(heart failure)などの明確な症状がみられる場合に、レボチロキシン治療を開始するよう推奨しています。10 mIU/L以下のサイロトロピン濃度を呈する、症状のない患者に治療を行うと、利益を与える以上に害をもたらすことがあります。

試験結果により、2001~2009年ではレボチロキシン治療開始のサイロトロピン濃度が8.7から7.9 mIU/Lに減少し、 10mIU/Lのサイロトロピン濃度でレボチロキシン治療を開始した割合は増加していることがわかりました

イギリスでは、160万人がレボチロキシンの長期治療を受けており、その多くが甲状腺機能低下症の治療として処方されています。