進行精巣腫瘍の集学的治療

精巣原発の胚細胞腫瘍は乳幼児および青壮年男子に好発する悪性腫瘍で、以前は予後の悪い腫瘍であったが、現在は進行例でも化学療法がよく効く救命可能な疾患となった。

 初発症状は無痛性の精巣腫大であるが、ときに有痛性のこともある。

 組織型はセミノーマと非セミノーマに二大別される。非セミノーマは胎児性癌、奇形腫、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌の総称である。

 病期はI期が転移なし、U期が後腹膜リンパ節転移、Ⅲ期が遠位リンパ節および遠隔転移である。従来精巣腫瘍の所属リンパ節は大動静脈周囲リンパ
節のみであったが、 TNM分類ではそれと骨盤リンパ節が所属リンパ節となった。

 治療計画はまず精巣を高位に摘除し、組織型別、病期別に立てる。

 放射線治療はセミノーマI期の予防照射とIIA期の治療照射ならびに進行例のスポット照射が適応である。

 セミノーマI期には10~20%出現する可能性のある後腹膜リンパ節転移の予防に25~30Gy/ 3週間の放射線照射を行う。非セミノーマI期には再発が20%出現する可能性があるので予防的に後腹膜リンパ節郭清あるいは化学療法が行われる。一方I期の再発率は20%と低いので、非セミノーマでは精巣摘除後なにもせずというsurveillanceの考え方が台頭してきたが、本邦でもこの方針をとる施設が増えている。 surveillanceで再発した場合にも化学療法は有効でI期全体の治癒率は90%以上であるm

 セミノーマⅡAには35~40Gy/ 4週間の治療照射が行われ100%近い治癒率が得られるが、表5の進行例の治療に従って化学療法を行ってもよい。セミノーマUBと非セミノーマII期以上の進行例には放射線は無効で表5の如き治療方針にしたがって化学療法中心の集学的治療が行われる。

 進行例の集学的治療による治癒率は1期で80%以上、Ⅲ期で70~80%である。

 精巣腫瘍の化学療法のレジメンは PVBとVAB-6が一般的である。癌研ではCOMPEを試みている。また難治性の進行例にはBEPやPVeBV が試みられている。

 従来、これら化学療法を遂行する上で障害となっていたのは悪心嘔吐や白血球減少症などの副作用であったが、最近好中球減少症に対する天然型顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)(ノイトロジン、グラン)や悪心嘔吐に対する5 HT (5 hydroxytryptamine : serotonin)受容体拮抗剤(Ondansetron、カイトリル)が開発され、安全かつ完全にレジメン通りの化学療法が実施できるようになった。副作用が克服されると化学療法を中心にした進行精巣腫瘍の集学的治療の成績はさらに向上するであろう。