鼠咬症

鼠咬症といわれるものには2つの病原体による感染症が含まれる。 1つはモニリホ
ルムレンサ桿菌SZyゆた■)bacillus moniliformisというグラム陰性の多形性菌による感
染症で、ほかの1つは、鼠咬症スピリルムSpirillum minorによる感染症で鼠毒Sodo-
kUともいわれるものである。両者は臨床的、疫学的に類似点が多い。

モニリホルムレンサ桿菌感染症 Streptobacillus moniliformis

 過去10日以内に、ネズミに咬まれた既往歴があり、悪寒、発熱、頭痛、筋肉痛で発症する。咬傷局所の浮腫、硬結、領域リンパ節の腫脹を見る。発疹、溢血斑、多発性関節炎、白血球増加を伴う。

 咬傷は破れて潰瘍となり、疼痛を伴い、遷延する。発熱は回帰熱型を呈し、発熱と平熱が交互に、約1週間の周期で1~3か月継続し、自然に軽減、治癒する。治療しないときの致命率は7~10%という。また、心内膜炎や局所に膿瘍を生ずることもある。

 臨床上から、病原体の鑑別は困難であるが、関節炎を欠くか、軽度で潜伏期が長目のときは、スピリルムによるものを考える。

 膿汁、リンパ節、血液、関節液の細菌学的検査を行い、凝集反応をペア血清で実施する。

 本症は全世界に分布するが、日常臨床でほとんど遭遇しないようである。

 ネズミを始め齧歯類が媒介する。感染動物の唾液、鼻汁、眼脂などが感染源であり、咬傷を通して感染することがほとんどである。

 潜伏期は3~10日、一般にヒトからヒトヘの伝播はない。

 予防には、ネズミの駆除、牛乳の殺菌を励行する。汚染乳で流行が起こったことがある。

 テトラサイクリン系、ペニシリン系抗菌薬が有効であり、臨床経過を著しく短縮し、治癒を早くさせる。

 

 鼠咬症スピリルム感染症 Spirillum minor infection

 本症では関節炎がないこと、発疹がより扁平であることで異なるとされる。潜伏期がより長く、1~3週間である。

 臨床症状は類似し、無治療時の致命率は同じく約10%という。伝播様式、疫学的事項もすべて前項と同様である。

 検体を暗視野で鏡検し、またマウス接種後に、血液または腹腔液を同様に検査すると、運動するスピリルムを認め得る。前項と同様の抗菌薬が有効である。