Q 夫は胃が弱いせいか、よく胃薬を買います。新薬がでると、当然、夫はすぐに買うのですが、従来の薬より効き目がよいのでしょうか。(49歳 主婦 広島)

Q 夫は胃が弱いせいか、よく胃薬を買います。新薬がでると、当然、夫はすぐに買うのですが、従来の薬より効き目がよいのでしょうか。(49歳 主婦 広島)

 新薬には、2種類あります。

 それは、まったく新しく発明されたピカピカの「ピカ新」と、新薬に似たような新鮮味に欠ける薬がソロソロとでてきたという意味の「ソロ新」の2種類です。

 化学の嫌いな人はぞっとするかもしれません。薬は化学物質なので、厳密には複雑な亀の甲からなる化学構造式で表現されます。

 ピカ新とは、化学構造的に従来の薬とはまったく異なった化学構造を持った化合物です。ソロ新とは、すでによく知られている薬の化学構造の一部分を、ちょっと変えただけの化合物を指します。

 世界的に日本は自動車成金、アラブ諸国はオイル成金と言われます。

 日本を代表する産業の自動車の分野でも、基本的な技術は欧米の技術に依存している、と海外から批判されます。欧米で開発された画期的な技術の特許が切れた後、その改良技術を用いて高品質の自動車を大量に世界に輸出していることに対し、反発を持たれているのです。

 この傾向は、家庭電気製品の分野においても同じです。 冷蔵庫、テレビ、掃除機などもしかりです。製品の基本的な仕組みは、欧米の先進国からすべて学んだものばかりです。

 このように日本人は、高品質の製品を大量かつ安価に製造することに関しては、世界で一番上手です。日本が高度経済成長期であれば、欧米の先進国はおおめに見てくれました。

 しかし、かつてのバブルの際、アメリカのニューヨークの象徴とも言うべきビルを、日本の不動産会社が購入してからは、真の大人としての役割が世界的に求められるようになりました。薬の世界も同じです。開発の成功率が高いという理由から、日本の医薬品会社の多くは、効き目の確かな既存薬の化学構造の一部を改造した、「ソロ新」の開発に主眼をおいていました。

 それが世界では通用せず、日本でしか売られていないという「ローカルドラッグ」という製品を多く生みだしてしまった原因です。ソロ新は、従来の新薬に比べ、劇的によく効くということはありません。

 効果は前の薬剤よりも少しましか、あるいは副作用が少なくなっている、という改良型の新薬です。

 これに比べてピカ新は、従来の薬理作用とはまったく異なった、新しい作用を持った薬剤です。したがって、化学構造的には今までの薬とは完全に異なった物質です。

 日本の製薬会社が開発したピカ新としては、武田薬品の降圧薬のカンテサルタン(商品名一フロプレス)、藤沢薬品の肝臓移植後の免疫抑制薬のタクロリムス(商品名‐0フログラフ)、三共高脂血症薬のプラバスタチン(商品名メバロチン)、山之内製薬の前立腺肥大症による排尿障害薬の塩酸タムスロシン(商品名(ルナール)などが有名です。

 いずれも世界的に通用している、バリバリの日本発のピカ新です。特に、タクロリムスのお陰で、肝臓移植ができるようになりました。日本人の医薬品研究者は、臓器移植の世界では鼻高々です。

 まあ、あなたのご主人のような場合には、特に問題はないでしょうが、あまり次々と薬剤を買い求めるようでしたら、一度、病院で胃カメラをお飲みになったほうが賢明かと思います。