商品化された遺伝子組み換え食品

 現実に商品化された遺伝子組み換え食品は、開発の大義名分である「食料不足の解決」とは掛け離れたもので、単に利益の上がる商品開発に終わっている。荷崩れせず、日持ちのよいトマトの開発は、消費者の利益でなく、流通の都合で開発された商品である。また、農薬耐性や殺虫剤耐性作物も、あくまでも農薬を大量に使える先進国の農業が対象である。農業に適さない気候、風土の悪条件に対応できるような、耐寒性、耐乾性、耐塩性、耐病性作物が開発されているわけではない。食料不足の解消につながる遺伝子組み換え食品の開発事例や萌芽は見受けられない。

 従来の品種を組み換え品種で置き換えるだけで、食料不足を解消できると考えるのは、あまりに楽観的すぎる。すでに、現在の肥料、農薬を多量に使用した農法には限界がみられ、穀物の収量は鈍化傾向にある。水資源の枯渇や、耕地面積の減少などの要因もあり、穀物生産はこれまでのような飛躍的な伸びはもはや期待できない。

 現状の食料不足は、食料の絶対量不足によるものではない。人口増加の地域的な偏りや先進工業国での飽食など、人口政策や食料配分の南北問題でもある。これらを解消する地球規模の対策が、まず求められている。

(2)途上国の食料増産ができるか?

 開発企業は「開発途上国では、気候、風土的な困難さに加えて、経済的な面からも農薬の使用が困難である。殺虫剤、殺菌剤、除草剤が十分使用できない状況もあり収穫量が減少している。害虫抵抗性作物、耐病性作物や除草剤耐性作物により開発途上国の食料増産に寄与できる」と主張した。

 遺伝子組み換えによる害虫抵抗性作物、耐病性作物や除草剤耐性作物が、開発途上国の食料増産に寄与できる保証はない。市場規模が小さく、しかも途上国それぞれの気候、風土に合わせた遺伝子組み換え作物が開発されるとは考えにくいからである。また、途上国の農家が組み換え作物の種子とこれに適した農薬を組み合わせて購入できる経済的基盤はない。この先、途上国が自前の遺伝子組み換え技術を獲得できる可能性はさらに薄い。

 途上国では、植民地時代から引き続くコーヒー、ココア、砂糖、綿花やゴムなど輸出商品に特化した農業生産の構造的枠組みがあり、食料自給の障害となってきた。現状でも、豊かな国で過剰生産された安価な農産物の輸出圧力が、途上国の食料自給の体制を困難なものにしている。実際に、バイオリアクターによる果糖の生産は、砂糖の価格を低下させ生産国の経済を低迷させている。遺伝子組み換え作物の開発は、先進国の生産には役立ったとしても、食料不足に苦しむ国々の経済と食料事情をさらに悪化させる結果になるのは目に見えている。

 遺伝子情報は人類共通の財産であり、特定の企業の独占は許されない。しかし、現実には種子資源、遺伝子組み換え技術の特許などは、農薬メーカー、穀物メジャーなど多国籍企業によって独占的に支配されている。先進諸国による遺伝子組み換え技術の独占は、農産物の生産と供給に対する多国籍企業の支配をさらに強化し、食料供給の寡占化を助長することになる。特に途上国には深刻な問題を投げかけている。