情報を改ざんする厚生省の卑劣

 

 

 薬害エイズはなぜ発牛したのかを明らかにするため菅厚生大臣の強い決意でエイズ研究班のメンバーをけじめとする七二人に、当時の事情を問い合わせたアンケート調査が行なわれた。その結果が、一九九六年二月二八日に開示された。厚生省が長年の事実隠しともいえる後ろ向きの姿勢を改めて、積極的な情報開示に転じたのかと思いつつ読んでみると、ちょっとおかしなことに気が付いた。厚生省が情報を改ざんしていたのである。

 

 改ざんされたのは当時血液製剤間題小委員会の委員としてエイズ対策の決定に大きな役割を果たした一人で、現在聖マリアンナ医科大学教授の山田兼雄氏のコメントである。

 

 山田氏は八四年一月五日に当時の厚生省のエイズ問題の担当課長郡司篤晃氏をけじめ、ほか二人の血友病専門医らと共に東京・八重洲で会合したという。その前に前年つまり今年の暮れに、危険な非加熱濃縮製剤に代わるものとして加熱濃縮製剤を日本に早期に導入するには、剤型変更という方法があることを郡司謀長から聞いていた。八重洲の会合ではその剤型変更が話題になり、日本はこの方法で緊急に加熱濃縮製剤を導入したほうがよいという話になった。それでそのことを、加熱濃縮製剤に反対している安部英エイズ研究班班長にこんなやり方もありますよと、話した。これが山田氏のコメントのあらましだ。

 

 ところがここに厚生省が噛みついた。二月二五日の日曜日の夜九時すぎに厚生省の官僚が山田氏の自宅をわざわざ訪ね、山田氏に向かっていったそうだ1「先生の列記憶には間違いがあります。訂正文を出してください」と。

 

 「間違いだ」と厚生省がこだわった部分は、「八三年暮れ」に郡司課長から剤型変更の話を聞いたということと「八四年一月五日」の会合で郡司謬瓦らと再び剤型変吏について語ったという部分だそうだ。ちなみに剤型』変更とは、薬の製造法など一部のみを変更した場合、効能にも副作用にも変化はないと認めて、新薬扱いせずに、簡単に承認するやり方のことである。

 

 厚生省は八三年末や八四年初頭に郡司課長が加熱濃縮製剤を剤型変更扱いにしてスピーディーに認めようなどという議論はするはずがないといったわけだ。その理由は、当時はすでに加熱濃縮製剤を剤型変史の扱いにはしないことが決まっていたからだという。

 

 たしかにこの時期、加熱濃縮製剤は新薬扱いできちんと治験を行なってから中央薬事審議会で審査する方針が決まっていた。つまり、加熱濃縮製剤は早期に承認されるどころか、長い治験期間を経なければ認めないと決定されていたのだ。

 

 山田氏は日曜日夜にわざわざ自宅を訪ねた厚生官僚に、「こんなふうに訂正をださせるようなことをすれば、マスコミも気付いて大きな話題になりますよ」と警告した。厚生官僚は「それも仕方のないことです」と答えたという。そして翌月曜日の午前中、この厚生官僚は再び山田  氏に連絡して前夜の話どおり訂正文の提出を改めて求めたという。

 

 なぜ厚生省はここまでこだわるのか。それは剤型変更といういわば緊急手段を考えたほど、従来の非加熱濃縮製剤に危機感を抱いていたと思われたくないからだ。さらに踏み込めば、それほど非加熱濃縮製剤の危険を感じていたなら、なぜその使用をストップさせなかったのかと責任追及されることを恐れているのだ。

 

 山田氏は「記憶に間違いがあります」といわれたときに「恥ずかしい」と感じたそうだ。医療の専門家の自分がそんな間違いを記憶していたことを恥じたという。だが、恥ずべきは山田氏かそれとも厚生省か、答えは明らかであろう。