無責任行政でHIV第四の犠牲

 非加熱濃縮製剤でHIVに感染させられた犠牲者は一八〇〇人の血友病患者だけではなかったことが、読売新聞などの調査で明らかになりつつある。

 

 咋年(一九九四年)七月には、ビタミンK依存性凝固因子欠乏症の九歳の女の子が、八五年の誕生時に打たれた非加熱濃縮製剤でHIVに感染していた事実が明らかになった。今年二月には、一〇年前に劇症肝炎の治療で非加熱濃縮製剤を打たれHIVに感染したI〇代の患者の事例が見つかった。さらにまた六月になって、別の10代の患者が血が固まりやすくなるプロテインC欠損症の治療に非加熱濃縮製剤を打たれて感染していたことも明らかになった。

 

 これまでHIVは性感染、母子感染、輸入非加熱濃縮製剤による血友病患者への感染がおもなルートとされていたが、血友病以外の患者への非加熱濃縮製剤の投与、いわゆる第四ルートでも犠牲者が出ていたわけだ。

 

 厚生省エイズ研究班が今月発表した調査では、全国で少なくとも三四の病院が、八七年までに計一〇〇人以上の血友病以外の患者に非加熱濃縮製剤を投与している。

 

 だがこれは全国一三〇〇の病院に間い合わせ、約七〇〇の病院から寄せられた回答を集計し  ただけのものだ。現実には、さまざまな理由で非加熱濃縮製剤を投与された患者数はもっと多いとみられている。

 

 エイズ診断を受けたことがなく、したがってエイズとは断定できないが、非加熱濃縮製剤を投与されていた患者が原因不明の免疫不全で亡くなったケースも報告されている。状況からみると、このケースがエイズ死である可能性は非常に高い。第四ルートによるHIV感染の被害はもう一つの薬害事件として、新たな悲劇の実態を私たちに突きつけつつある。

 

 この第四ルートの被害が発信しているメッセージはいったいなんだろうか。厚生省は、HIVに感染した血友病患者らによって提訴された東京HIV訴訟の法廷で、繰り返し、非加熱濃縮製剤は、血友病の治療のためにこそ必要だった。エイズウイルス混入の危険があったにせよ、血友病の治療のほうが優先されるべきだとの総合的判断が働いて、非加熱濃縮製剤が使われ続けた旨、主張した。医師たちの主張もまた同じである。

 

 しかし、今明らかになりつつある第四ルートの患者たちは、血友病の患者たちではないのだ。「エイズウイルス混入の危険を考慮してもなお、総合的に判断すると非加熱濃縮製剤を使用せざるをえなかった」などという言い訳はここではまったく通じない。

 

 輸入非加熱濃縮製剤を使わなくても、はかにいくらでも治療法のあった劇症肝炎、プロテインC欠損症などになぜ、エイズとの関連で問題視されていた非加熱濃縮製剤を医療関係者は使つたのか。しかも厚生省の調査では、彼らは八五年以降も、同製剤を用いているのだ。

八五年七月には、ウイルス処理の行なわれた加熱濃縮製剤があったはずだ。それにもかかわらず、非加熱濃縮製剤はいともやすやすと、患者たちの血管に注入された。八五年七月の加熱濃縮製剤に切り替えるとの決定にもかかわらず、厚生省が非加熱濃縮製剤を回収させなかったのはなぜか。

 

 それは、彼らが非加熱濃縮製剤によるHTIV感染の危険性について注意すら払わなかったということだ。あきれるほど無責任だということだ。

 

 もう一つみえてくる構図は、この非加熱濃縮製剤のもたらす薬価差益に、多くの医師たちが判断を狂わせられたということであろう。

 

 アメリカでは使用できなくなった非加熱濃縮製剤は半値以下にダンピングされて日本に輸出された。病院にとっては大きな薬価差益を生み出寸ことになる。そのため、非加熱濃縮製剤を常用する患者が病院の経営を助けたということさえもいわれているのだ。

 

 こうして無責任に投与された非加熱濃縮製剤の被害の実態はまだまだ埋もれたままだ。厚生省は徹底的な事実関係の究明を急ぐべきであろう。そのうえで、感染者たちにまず告知し、エイズ発症予防の治療を受けさせるのが、厚生省の責任である。