T-DM1(抗がん剤)は進行性HER2陽性乳癌の女性に有効(TH3RESA臨床試験)

混合薬(combination drug)『T-DM1』のフェーズⅢ臨床試験結果により、同薬が進行性HER2陽性乳癌の悪化を有意に遅らせることが明らかになりました。同試験で対象となったこの癌は、トラスツズマブ(trastuzumab)やラパチニブ(lapatinib)で治療を受けたにもかかわらず再発、または進行したものでした。

2013年度European Cancer Congress (ECC2013)でこの画期的な試験結果を発表した際に、Hans Wildiers氏は次のように述べました。
「この試験で明らかになったことは、徹底的な治療を受けた女性でも、その75%で癌が内臓器官(internal organ)に転移するが、T-DM1は従来の療法と比較して、Progression-Free Survival(無増悪生存期間:むぞうあくせいぞんきかん)をほぼ倍にし、安全性も高めるということだ。無憎悪生存期間の改善と良好な毒性プロフィールの両方を達成できる薬剤はほぼ皆無である。これらの結果は、同薬が患者に対して重要な臨床的ベネフィットをもたらすことを示している。」

T-DM1は共役モノクローナル抗体(conjugated monoclonal antibody)であり、trastuzumabと殺細胞(cell-killing)薬剤 emtansine (DM1)を混合したもので、細胞表面にFER2タンパク質を大量に発現している乳癌(HER2陽性乳癌)を標的および攻撃します。T-DM1は体内の別部位に転移したHER2陽性乳癌患者( trastuzumabとtaxaneの化学療法を既に受けている者)に有効であることが確認されています。

「既存の治療法も改善がみられるものの、HER2陽性転移性乳癌患者では癌が進行するため、緩和治療として追加の治療が必要になる。抗HER2薬のtrastuzumabやlapatinibなど2つ以上の薬剤療法を受けた患者に対しては、そのケアの基準がまだ確立していない。」とProf Wildiers氏は述べています。

TH3RESAと呼ばれる国際的なフェーズⅢ臨床試験では、手術不可能(inoperable)な癌を抱える患者や、trastuzumabやlapatinibなどで複数の治療を行った後でも再発や転移が発生した患者が被験者となりました。2013年2月時点で602名の患者が、T-DM1の3.6 mg/kg静脈内注射(intravenous infusion)群、または担当医師が選択した治療(TPC)群へ割り付けられました。過半数以上(75%)で内臓疾患(visceral disease;内臓器官に転移した癌)が生じました。

無憎悪生存期間の平均はTPC群が3.3ヶ月であり、T-DM1群が6.2ヶ月でした。ほぼ倍になったので、T-DM1の効果がすごく高いことがわかりますね。ちなみにT-DM1群の31.3%が薬剤に応答し、TPC群ではたったの8.6%でした。患者生存率の中間分析(interim analysis)でも同様の傾向が確認されましたが、残念なことに、統計的に有意なT-DM1治療効果を確認できるレベルには達していませんでした。癌の進行が見られるTPC群の患者に対しては、T-DM1への変更という選択肢が与えられますが、実際に乗り換えた者は今のところ44名です。T-DM1患者では重い副作用の発生率が低くなります。承認取得が待ち遠しいですね。