薬害エイズ禍は厚生省の責任

 

 血友病患者のHIV感染は薬害であるとして五年にわたって裁判が続けられているが、実はこの薬害は、かつてないほど悪質な厚生行政によって引き起こされていた。

 

 これは今週、HIV訴訟の法廷に原告側弁護団から提出された準備書面で明らかにされたものだ。それによると、血友病の治療薬である非加熱濃縮製剤がHIVに汚染されているのではないかとの疑いが生じていた一九八三年当時、厚生省は血液製剤メーカーから「危険性があるため血液製剤の出荷を停止した」という、まさに患者の命にかかかる報告を受けておきながら、この重大な事実を隠し続けていた。

 

 八三年といえば、その年の六月、厚生省のエイズ研究班が発足しか年である。そして厚生省はこの研究班設置をもって「当時はまだ、輸入血液製剤がそれほど危ないという認識はなかった。だが、研究班を設置して厚生省なりに対処した」と、できうる限りの対策はとったと主張し続けてきた。

 

 ところが研究班が発足した同じ八三年六月に、製薬メーカーのトラベノール社は「アメリカからの血液製剤一〇〇〇本を輸入したが、血液提供者の一人がエイズのような症状を示しかために出荷を停正した」と厚生省に報告していたのだ。

 

 さらに同じ年の一一月、今度はカッタージャパン社から「六〇二六本の製剤について、一部供血者がエイズを発症したため、出荷前に自主的に廃案する」との報告も受けていた。

 

 準備書面では、原告側弁護団が厚生省にこれらの事実を承知しているかと釈明を求めたのに対し、厚生省側から「右の報告は受けていた」、ただし、「報道機関などに伝えたことはない」ことなどが確認されている。

 

 厚生省はマスコミに対しては情報を握り潰していたのだ。さらに許し難いのは、厚生省が

自ら設置したエイズ研究班に対してさえもこの情報を伝えていない疑いがあることだ。この点に関して準備書面に示された厚生省の回答は「(エイズ研究班に伝えたか否かについては)確認できない」となっている。

 

 エイズ研究班の役割の一つは、非加熱濃縮製剤の危険が指摘されている中で血友病患者の治療は従来の非加熱濃縮製剤で続けるのか、それとも他の治療薬に切り替えるのかを決めることだった。そうした課題を与えられた研究班に対して、厚生省はこの重大情報を伝えなかったのか。エイズウイルスの混入した血液製剤が廃棄処分になったとはいえ存在したことは、HIVが事前のチェックの網をスリ抜けたことであり、汚染血液製剤がほかにもあることを示唆する。そのことから目をそらしたうえでの対策論議がいかはどの意味を持つと厚生省は考えたのか。事実、同研究班は血液製剤間題小委員会の報告を受ける形で八四年四月に、日本における血友病治療の主軸は輸入非加熱濃縮製剤に代わるものはないとの考えを大方針として打ち出した。それによって二〇〇〇人もの血友病患者がHIVに感染させられたことはすでに幾度も指摘した。

 

 もし、厚生省が八三年六月、あるいは同年一一月に、製薬メーカーから受けた報告を公表し、エイズ研究班にもその報告を伝えていたら、血友病患者のエイズ感染は最小限度に抑えられていたはずだ。

 

 今回明らかになったこの事実は、原告側弁護団が追及してようやく厚生省が認めたものだ。しかも、質問は半年前の九四年春に提出されたものだ。釈明を求められて半年が過ぎて渋々ながら厚生省は答えた。これだけでも許せないが、驚きを通り越して憤りさえ覚えるのは、このような重大事実を厚生省が一一年間も隠し通してきたことだ。自らに都合の悪いことは、ひたすら囗を拭って語らないという姿勢である。

 

 従来多くの薬害は、厚生省や製薬会社が情報を十分に集めずに、努力不足から発生させた側面があった。だが、薬害エイズに関しては、危険を知らせる情報を厚生省が隠すことによって被害が広がった。これまでのどの薬害よりも、厚生省が積極的に関与した悪質なヶIスである。