伝染病の発生条件

伝染病は時間的(time)、場所的(place)にいろいろな人的特性(person)をもって発生する。その発生状況によって次のように区分する。

 散発発生sporadic―時間的にも、場所的にも少数の患者が散発的に発生する場合をいう。散発流行とも呼ばれる。

 流行epidemic一特定の集団または地域においてある疾病(またはある集団発生)が明らかに期待値を超えて発生する場合をいう。流行の存在を示す患者数は、病原体、曝露人口の大きさや種類、既往における当該疾病への曝露の有無、発生の時期と場所により異なっており、したがって流行陛は同じ地域の特定集団中において、同一季節に見られる当該疾病の通常の頻度に関係するといえる。もし、初めての地区や、長期間発生を見なかった地区に伝染病患者が1例出た場合、直ちに報告を行って疫学調査を開始すべきであり、このような患者が時間と場所に関連して2例もいるなら、流行と考えるべき十分の証拠を提供しているといってよい。なお、発病者はいなくても感染者の流行が見られる場合は、これを不顕性流行inapparent epidemic という。

 ある疾病が多発し、しかも流行の時間的経過が急速な場合は、これを点流行point epidemicと呼んでおり、同一の感染源にほとんど同時に曝露したことを示唆しているにれを単一曝露による共通経路感染common vehicle infection という)。

 なお、動物(家畜)の間に見られる流行は動物間流行epizooticと呼ばれる。

 地方流行endemic一地方病性流行や風土病性流行ともいわれるが、特定地域に長期間、ある疾病または病原体が常在的に存在している場合に使われる言葉である。この場合、その疾病が通常の有病率を超えて高率に常在していれば(つまり、強い伝播力が維持されていれば)高度地方流行hyperendemic、逆に低率の場合は軽度地方流行hypoendemic、中間で通常の率の場合は中等度地方流行mesoendemicということがある(例:マラリア)。

 また、全面地方流行holoendemicというのは、幼若期から感染率が高く、人口のほとんど全員が罹患する場合に用いられる。

 なお、動物(家畜)間における地方流行は動物間地方流行enzooticと呼ばれる。

 汎流行pandemic一流行の地域が世界的で、つまり、世界的大流行のことである。

 流行の時間的変化を示す用語として、すう勢変化trend variation または長期変化secular variation (伝染病の流行が十数年あるいはそれ以上の周期で起伏を示す場合。例:以前は腸チフス15~20年、赤痢20~25年)、循環変化cyclic variation (すう勢変化の間に数年の周期で小さな流行の波を示す場合。例:以前は麻疹が都市で2年、農村で2~4年、腸チフス4~7年、赤痢6~8年)、季節変化seasonal variation (消化器伝染病は夏から秋口、呼吸器伝染病は冬から春先)、不規則変化irregular varia-tion(上述したような規則的な変化を示さない場合。例:インフルエンザ、外来伝染病)などがある。

 上述したいずれの発生状況を示す流行であれ、伝染病の発生には病原体、感染経路、宿主の感受性の3条件のそろっていることが必要であり、これを伝染病発生の三大要因という。