ブルセラ症 Brucellosis:波状熱 Undulant fever、 マルタ熱 Malta fever、 地中海熱 Mediterranean fever

 全身性の慢性感染症であるが、ヒトでは急性期症状も著明である。悪寒、発熱、頭垢発汗、関節・筋肉痛、衰弱感を呈する。不顕性感染も多い。典型的な場合、発熱の経過が特徴的で波状熱を呈するので、ヒトの本症を波状熱ともいう。メリテンシス菌(マルタ熱菌)感染の場合にはマルタ熱、地中海熱ともいう。弛張熱で午後には高熱となり、朝は平熱近くに下がる。インフルエンザなどと鑑別を要するが鼻カタルはない。腺チフス、腺熱などとも鑑別を要する。

 ブルセラ属の中でヒトに病原性を示すのはメリテンシス菌― ヤギが自然宿主、ウシ流産菌(バング菌)B.abortus、ブタ流産菌B.suis一野ウサギ、トナカイも宿主となる、が主であるが、このほかイヌ流産菌B. canisもヒトに罹る。これらのうちヒトに対してはB.melitensisが最も病原性が強く、B. suis. B.abortusの順といわれる。B.canisはかなり弱い。グラム陰性短桿菌である。

 ブルセラ属菌は世界的に存在し、特にヨーロッパ地中海沿岸諸国、中近東、中国、ソ連、オーストラリア、南北アメリカに多い。

 わが国では、動物についてはB.abortusがウシにあったが近年ほとんど撲滅され、動物検疫で摘発される程度である。B. canisによるイヌの感染はあり、数%の感染率と推測されている。

 本菌の病原巣はこれら自然感染動物で、感染源は感染動物の臓器、血液、尿、乳、胎盤、流産胎仔などである。床敷、堆肥なども汚染される。感染動物、その臓器などとの接触、未殺菌の乳や乳製品の摂取などによってヒトヘ伝播する。本菌は実験室感染の危険が高いことで有名である。ヒトからヒトヘの感染はまれである。

 確定診断は抗体価の上昇、血液などからの菌分離による。B. melitensis、B. suis、B. abortusは共通抗原がある。

 ブルセラ属菌は細胞内寄生菌であるので治療はがなり難しい。クロルテトラサイクリンとストレプトマイシンあるいはサルファ剤を併用し、十分な量と期間の投薬が必要とされる。急性期の投薬にはヘルクスハイマー症候群の発現に注意する。