国際共同治験とは

 治験期間の長さを解決するために、近年注目されているのが「国際共同治験」である。国際共同治験とは、評価項目、対象患者の主な背景、適応症など、治験を実施するにあたって中心となる部分を共通にしたうえで、日米欧、世界各地において同時に実施する治験(臨床試験)をいう。

 では、国際共同治験は何のために行うのか、あるいは一国で治験を行う場合と比べてどのようなメリットがあるのか。国際共同治験には国内外の医療機関が参加するので、治験に参加する施設数が増え、結果として症例集積のスピードが高まる。たとえば、数子規模の大規模な臨床試験を行おうとする場合、対象疾病の国内での発生状況から考えると被験者の登録に2年近くを要するが、外国の医療機関や患者の参加により半年程度で被験者登録が終了することもある。結果として治験が早期に終了し、新薬承認申請の時期を早めることができる。また、得られるデータについては、単一の国や地域で行われた治験よりも多様性に富む被験者が参加するため、国・地域間で一貫性のある結果が得られれば、治験結果の汎用性が高まるというメリットもある。しかも、自国のみならずその治験に参加した国々において、その治験成績にもとづいた承認申請が行えるようになり、臨床開発の効率化に資するというメリットもある。

 一方で、治験に参加する医療機関や研究者の数が増え、そのバックグラウンドが多様になれば、試験全体の管理により多くの労力を要するようになることは想像に難くない。場合によっては、一定水準の管理を行うこと自体が難しくなるかもしれない。たとえば、治験実施計画書ひとつをとっても、国内のみの治験なら、それほど細かな規定をしなくとも従来からの慣習でほぼ統一的な対応がとられていたものが、外国の医療機関も参加するとなるとそうはいかなくなる。また、治験データについての解釈や評価が複雑化する方向に進むことは間違いない。さらに英語が共通語として用いられれば、特に日本の医療関係者たちにとって負担となるケースも生じてくる。

 このように、国際共同治験は、早期に治験を行えるという利点がある一方、さまざまな工夫や準備を要するため、決して容易に実施できるわけではない。事前に十分な調査・検討を行い、周到な準備をしたうえで実施して初めて多大な成果をもたらすものとなる。