モルヒネ投与における薬剤師の役割と看護婦の役割

 モルヒネの適切な投与方法,および至適投与量を設定するための患者情報が不足している場合は,疼痛緩和に時間がかかったり,時に疼痛緩和に至らないこともある。また副作用への対処が遅れると痛み以外の苦痛が加わることになり,場合によっては患者の協力が得にくくなることもあり注意する必要がある。このため薬剤師は,医師や看護婦または患者本人から鎮痛薬の効果や副作用の程度などを確認することで,その患者に最適と思われる薬物,剤形,および副作用の対処などの情報を医師に提供し,医師が処方を決定する際に薬物療法の情報支援者とならなければならない。さらに,普段から医療従事者に対してモルヒネに関する情報を薬局の広報紙などを通じて流しておくことも重要な仕事であり,薬剤師が受け持つ役割の意義は大きい。

 また,長時間患者に接する看護婦は,モルヒネ投与量決定のための患者状態のきめ細かい観察や,副作用のチェックなどの重要な役割を担っている。このため担当看護婦のみでなく病棟全体の取り組みとしてとらえていく必要があり,看護婦および他の医療従事者を対象としたWHO方式癌疼痛治療法の勉強会を,病棟単位または病院全体の取り組みとして行っていく必要があると考える。

 癌疼痛治療の有効率を上昇させるためには,チーム医療は重要なカギであり,薬物療法の情報支援としての薬剤師と,患者の状態を細かく観察できる看護婦を交えたチームとして癌疼痛に取り組むことで,患者の痛みや副作用に対し,より適切な対応が可能となり,患者のQOLの向上に寄与するものと考える。

 【症例1】

 症例は,癌性疼痛に対しペンタゾシンを中心とした疼痛治療を行っており,コントロール不良で連絡を受けた。担当医に対し,ペンタゾシンの有効限界(ceiling effect)と精神症状などの副作用について情報提供し,持続性経ロモルヒネ製剤(MSコンチン錠)へ切り替えを依頼した。疼痛管理が落ち着いたところで退院し,死亡する3日前まで自宅で過ごすことができた。

 【症例2】

 症例は,55歳の男性で,胃癌から骨転移をきたし,腰部に強い痛みが出現した。MSコンチン1日60mgの投与開始後3日目より嘔気,4日目より嘔吐をきたし,プリンペラン注1日60mgや,ナウゼリン坐剤1回60㎎が無効のため,連絡を受けた。患者に面接し,安静時には痛みはほとんど感じないとの返答を得たため,主治医に対しMSコンチンの量はそのままで,セレネース注2. 5mg筋注後,嘔吐が止まれば同錠剤3mg分3の処方を依頼した結果,嘔気,疼痛共に良好な状態を得ることができた。

 WHO (1987)では,「癌患者の痛みは治療できる症状であり,治療すべき症状である」としている。さらに,痛み治療の倫理として「患者に。は痛みをコントロールするために十分な鎮痛薬を要求する権利があり,医師にはそれを投与する義務がある。痛みから解放されることは,全ての癌患者の権利と見なすべきである」としている。

 癌により死を迎える人に,その最後の時をつらい惨めな終わり方をさせないために,さらにその入らしく最後の時を迎えられるように,各医療従事者は癌疼痛治療の努力を続ける必要があると考える。