薬害エイズ禍は厚生省の責任

 

 血友病患者のHIV感染は薬害であるとして五年にわたって裁判が続けられているが、実はこの薬害は、かつてないほど悪質な厚生行政によって引き起こされていた。

 

 これは今週、HIV訴訟の法廷に原告側弁護団から提出された準備書面で明らかにされたものだ。それによると、血友病の治療薬である非加熱濃縮製剤がHIVに汚染されているのではないかとの疑いが生じていた一九八三年当時、厚生省は血液製剤メーカーから「危険性があるため血液製剤の出荷を停止した」という、まさに患者の命にかかかる報告を受けておきながら、この重大な事実を隠し続けていた。

 

 八三年といえば、その年の六月、厚生省のエイズ研究班が発足しか年である。そして厚生省はこの研究班設置をもって「当時はまだ、輸入血液製剤がそれほど危ないという認識はなかった。だが、研究班を設置して厚生省なりに対処した」と、できうる限りの対策はとったと主張し続けてきた。

 

 ところが研究班が発足した同じ八三年六月に、製薬メーカーのトラベノール社は「アメリカからの血液製剤一〇〇〇本を輸入したが、血液提供者の一人がエイズのような症状を示しかために出荷を停正した」と厚生省に報告していたのだ。

 

 さらに同じ年の一一月、今度はカッタージャパン社から「六〇二六本の製剤について、一部供血者がエイズを発症したため、出荷前に自主的に廃案する」との報告も受けていた。

 

 準備書面では、原告側弁護団が厚生省にこれらの事実を承知しているかと釈明を求めたのに対し、厚生省側から「右の報告は受けていた」、ただし、「報道機関などに伝えたことはない」ことなどが確認されている。

 

 厚生省はマスコミに対しては情報を握り潰していたのだ。さらに許し難いのは、厚生省が

自ら設置したエイズ研究班に対してさえもこの情報を伝えていない疑いがあることだ。この点に関して準備書面に示された厚生省の回答は「(エイズ研究班に伝えたか否かについては)確認できない」となっている。

 

 エイズ研究班の役割の一つは、非加熱濃縮製剤の危険が指摘されている中で血友病患者の治療は従来の非加熱濃縮製剤で続けるのか、それとも他の治療薬に切り替えるのかを決めることだった。そうした課題を与えられた研究班に対して、厚生省はこの重大情報を伝えなかったのか。エイズウイルスの混入した血液製剤が廃棄処分になったとはいえ存在したことは、HIVが事前のチェックの網をスリ抜けたことであり、汚染血液製剤がほかにもあることを示唆する。そのことから目をそらしたうえでの対策論議がいかはどの意味を持つと厚生省は考えたのか。事実、同研究班は血液製剤間題小委員会の報告を受ける形で八四年四月に、日本における血友病治療の主軸は輸入非加熱濃縮製剤に代わるものはないとの考えを大方針として打ち出した。それによって二〇〇〇人もの血友病患者がHIVに感染させられたことはすでに幾度も指摘した。

 

 もし、厚生省が八三年六月、あるいは同年一一月に、製薬メーカーから受けた報告を公表し、エイズ研究班にもその報告を伝えていたら、血友病患者のエイズ感染は最小限度に抑えられていたはずだ。

 

 今回明らかになったこの事実は、原告側弁護団が追及してようやく厚生省が認めたものだ。しかも、質問は半年前の九四年春に提出されたものだ。釈明を求められて半年が過ぎて渋々ながら厚生省は答えた。これだけでも許せないが、驚きを通り越して憤りさえ覚えるのは、このような重大事実を厚生省が一一年間も隠し通してきたことだ。自らに都合の悪いことは、ひたすら囗を拭って語らないという姿勢である。

 

 従来多くの薬害は、厚生省や製薬会社が情報を十分に集めずに、努力不足から発生させた側面があった。だが、薬害エイズに関しては、危険を知らせる情報を厚生省が隠すことによって被害が広がった。これまでのどの薬害よりも、厚生省が積極的に関与した悪質なヶIスである。

GPR30:乳癌細胞株におけるERの局所発現に関連

GPR30は、1996~1998年に4つの研究所で異なる細胞から同定されたが[24-27]、当時はそのリガンドが明らかでなかったため、Gタンパク質共役受容体(GPCR)スーパーファミリーに対する有意な相同性にちなんで命名された。この受容体は乳癌細胞株におけるERの局所発現に関連していることがわかり[26]、その後2000年にはFilardoらが、2つの乳癌細胞株「MCF-7(ERα+/ERβ+/GPR30+)」とER非発現型の「SKBR3(ERα-/ERβ-/GPR30+)」における細胞外シグナル制御キナーゼ(Erk)1、およびErk-2がエストロゲンによって急激に活性化したことを報告した。エストロゲンがGPR30のリガンドである可能性を示すこの研究結果は[28]、GPR30非発現型の乳癌細胞株「MDA-MB-231(ERα-/ERβ+/GPR30-)」におけるErk-1および2がエストロゲンによって活性化しなかった一方で、細胞へのGPR30移入後にはエストロゲンがErk-1および2を活性化させたという報告によってさらに信頼できるものになった[28]。従って、エストロゲンによるErk-1および2活性化にはGPR30が必要不可欠である。
GPR30はこれまでに、心臓や肝臓、肺、腸、卵巣、脳、乳房、子宮、胎盤、皮下脂肪、内臓脂肪、動脈、血管などの数多くのヒト組織または細胞株で発見されている[20、24-26、29-33]

単純ヘルペスワクチンの有効性:HSV罹患のリスク要因:生殖器からのHSV-2排出

原著論文
単純ヘルペスワクチンの有効性に関する臨床結果
概要
背景
一方のパートナーがHSVを抱えている男女カップルを対象にして、糖タンパク質Dを含む単純ヘルペスウィルス2型(HSV-2)サブユニットワクチンの有効性を調べた過去の2試験では、HSV1型(HSV-1)およびHSV-2抗体陰性女性の生殖器疾患に対する73%および74%の有効性が明らかとなった。しかし、男性やHSV-1血清陰性女性に対する同ワクチンの有効性は確認できなかった。
方法
我々は18~30歳の抗HSV-1およびHSV-2抗体陰性女性8323名を対象にして、有効性に関する無作為化二重盲検試験を実施した。試験開始日とその1ヵ月後、そして6ヵ月後には20μgのHSV-2由来糖タンパク質Dとミョウバン、および3-0-脱アシル化モノホスホリルリピドAのアジュバントから成る治験ワクチンを特定人数の被験者に投与し、対照被験者に対しては、酵素免疫吸着測定法(ELISA)で特定した720ユニットの用量でA型肝炎ワクチンを投与した。主要エンドポイントは2ヶ月(2回目の投与後1ヶ月)から20ヶ月の期間中におけるHSV-1、またはHSV-2を原因とする性器ヘルペス疾患の発症率である。
結果
HSVワクチンは対照ワクチンと比べて局所反応のリスク増加に大きく関与しており、HSV-2に対する中和抗体とELISAを誘発させていた。性器ヘルペス疾患に対する有効性は20%(95%信頼区間[CI]、-29~50)であるため、全体的に見るとこのワクチンは有効ではないが、HSV-1生殖器疾患に対する有効性は58%(95%CI、12-80)であった。また、HSV-1感染(疾患の有無に関係ない)に対するワクチン有効性は35%(95%CI、13~52)であったが、HSV-2感染に対する有効性は確認できなかった(-8%;95%CI、-59~26)。
結論
HSV-1およびHSV-2血清陰性女性の一般集団を表す試験集団において、治験ワクチンはHSV-1生殖器疾患および感染症の予防で有効であったが、HSV-2疾患および感染症を防ぐことはなかった。(出資者は国立アレルギー感染症研究所とGlaxoSmithKline;ClinicalTrials.govナンバー、NCT00057330)

単純ヘルペスウィルス1型(HSV-1)および2型はその両方が生殖管への一次感染をもたらすが、特にHSV-1感染による生殖器疾患がますます増加している。HSV感染の大部分は無症候性であるため、HSV-2抗体を持つ者の10~25%のみが再発性の生殖器疾患を呈する。感染女性から新生児へのHSV伝染は、生後における重度の神経疾患や死亡をもたらすことがある。性器ヘルペスウィルス感染の防疫対策では主に「抗ウィルス化学療法」と「教育」、「コンドームの使用」に力を入れている。有効な予防ワクチンを安定供給できれば、性器ヘルペスウィルス感染をさらに防ぐことができるだろう。
一方のパートナーが再発性のHSV生殖器疾患を抱えている男女カップルを対象にして、糖タンパク質Dを含むHSV-2(gD-2)サブユニットワクチンの有効性を調べた過去の2試験では、HSV-1およびHSV-2血清陰性女性のそれぞれ73%および74%でHSV-2感染の発症を有意に防ぐことができた(男性やHSV-1血清陰性女性に対する同ワクチンの有効性は不明)。公衆衛生における有望なツールとしてのgD-2ワクチンをさらに検討するため、我々はHSV-1およびHSV-2抗体陰性女性のコホートを対象にして同ワクチンの調査を行った。
方法
試験集団
18~30歳のHSV-1およびHSV-2血清陰性女性を米国の40施設とカナダの10施設で募集した。他の試験参加基準は「書面によるインフォームド-コンセント」と、「重度の健康障害を抱えていないこと」、「ワクチン接種30日前から3回目のワクチン投与後2ヶ月までの期間を通して避妊する意志のあること」「妊娠検査で陰性であること」であった。
ワクチンとアジュバント
HSV-2ワクチン(GlaxoSmithKline)はHSV-2株Gの糖タンパク質D切断型を20μg含むものである。0.5mgのミョウバンと50μgの3-0-脱アシル化モノホスホリルリピドAのアジュバントを含有する、0.5mlのgD-2ワクチンを試験開始日とその1ヵ月後、および6ヶ月後に注射で投与した。
対照ワクチンとして用いた容量0.5mlの不活性A型肝炎ワクチン(Havrix、GlaxoSmithKline)は、不活性A型肝炎ウィルス対象の酵素免疫吸着測定法(ELISA)で特定した720ユニットと0.5mgのミョウバンで構成されている。試験を盲検化するために対照ワクチン投与は、半分を通常の容量、残りの半分を通常の抗原量にして試験開始日とその1ヵ月後、および6ヵ月後に行った。

試験デザイン
治験依頼者である国立衛生研究所(NIH)とGlaxoSmithKline(試験管理者、実行委員会、および科学主要団体)との共同で、二重盲検無作為化野外試験のデザインを行った。データ収集ではGlaxoSmithKlineの遠隔データ入力システムを使用し、得られたデータをGlaxoSmithKlineがチェックした。データの正確性と完全性はすべての担当者と治験依頼者が保証している。委託試験機関「EMMES」へ伝送したデータはそこで、GlaxoSmithKlineとEMMES所属の生物統計担当者が用意した分析計画に基づいて分析された。また、NIHと試験管理者、実行委員会へも同データを送った。この計画はEMMES所属の生物統計担当者と実行委員会からの情報を元に、最初の試験担当者が立案したものである。プロトコルの報告書に関してはその忠実性をすべての試験担当者が保証しており、同報告書は本論文の全文とともにNEJMに掲載されている。
インフォームド-コンセントを取得した後は、被験者を試験開始日とその1ヵ月後、および6ヶ月後に行う三角筋筋肉内注射のHSVワクチン投与群、または対照(A型肝炎)ワクチン投与群のどちらかに1:1の割合(図.1)で無作為に割り当てた。併発の恐れのあるHSV疾患を未然に防ぐため、各被験者が選択した電話やeメール、携帯メールまたはソーシャルネットワークサイトなどの連絡手段を通して、積極的疫学調査を毎月実施した。また、無症候性感染を調査するため、試験開始日とその2ヵ月後、および6、7、12、16そして20ヶ月後に血清試料を採取した。さらに性的リスクのある行動を見極めるため、投与開始日と血清採取日には被験者に対してアンケート調査を行った。性器または非性器[non-genital]ヘルペスの疑いが出た時にはすぐに被験者を検査してウィルス培養を行い、現場担当者の判断でバラシクロビルを投与した。
試験のエンドポイント
本試験の主要エンドポイントは、2ヵ月後(2回目のワクチン投与後1ヶ月)から20ヶ月後にかけてHSV-1またはHSV-2、あるいはそれらの両方によってもたらされた性器ヘルペスウィルス感染症の予防効果である。生殖器疾患の定義は、「発症後6ヶ月以内にウィルス培養または血清転換、あるいはその両方で確認した臨床的に適合可能な徴候」と定めた。副次エンドポイントは2ヶ月後から20ヶ月後(2つの投与効果)または7ヶ月後から20ヶ月後(3つの投与効果)における(疾患の有無の両状態における)HSV-1またはHSV-2感染の予防効果や、個々のHSVタイプを原因とする性器ヘルペスウィルス感染の予防効果などである。感染および疾患症例の判定では盲検エンドポイント審査担当の独立委員会が、文書化された基準に基づいて中心的な役割を果たした。
ウィルス排出を対象としたサブ試験
試験期間中にHSV-2生殖器疾患またはHSV-2感染症の罹患者として特定した被験者に対して、ウィルス排出の評価試験に参加するよう求めた。そして、60日間連続で肛門性器部から検体をスワブで毎日採取し、さらに、HSV-2の血清転換または発症後の3ヶ月から6ヶ月にかけて、性器の状態を説明通りに記録し続けるよう指示した。

実験室検査
追跡期間中は試験開始時と血清転換時のHSV-1、およびHSV-2血清陰性状態を確認するために、ウェスタンブロット分析(シアトル小児病院のワシントン臨床ウィルス研究所附属大学)を行った。HSV-1またはHSV-2への血清転換は、ウェスタンブロット分析で過去にHSV陰性であった被験者が陽性になったことを意味する(詳細に関しては、NEJMで閲覧可能な補足用の付録を参照のこと)。
試験開始日とその2ヵ月後、および6、7、12、16そして20ヶ月後にはHSVワクチン群の被験者611名とコントロール群の被験者223名の血清試料を無作為に選び出し、ELISAを用いてgD-2とHSV-2ウィルス中和反応を測定して、ワクチン抗原に対する抗体の発現を評価した。そして前にも述べたように、ミリリットル当たり150コピーを陽性結果と定めた上で、蛍光プライマー標識によるリアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応法を用いて、長期にわたる性器からのHSV-2DNA排出を評価した。
統計分析
臨床試験は80%の検出力で同有効性の75%を検出できるようデザインされたものである。なお、ワクチン有効性の45%が95%信頼区間の下限値であった。プロトコルに合致したコホートを対象に、性器ヘルペス疾患72症例の治療計画で70症例を観察して情報目標を達成した。試験の安全性を年に4回審査する国立アレルギー感染症研究所の後援のもと、独立データ安全性監視委員会が同試験の監督を行った。また、事前に設定していた中間分析において、同委員会は臨床試験の無益性も審査した。予想以上に人員が減少したことを受けて、サンプルサイズを一度大きくした。各試験エンドポイントの最初の取得時間に適合したコックス比例ハザードモデルを用いて、そこから得られた関連リスクで1を引いた値をワクチンの有効性とした。追跡期間中の脱落率は2つの被験者群の間で差がなかったため、情報量の無い打ち切りを想定した。さらに、HSVワクチン接種に適合させたコックス比例ハザードモデルを用いて、HSV罹患に関わる人口統計学的および行動学的リスク要因の事後評価を実施した。報告済みのP値はそのすべてが両側検定で得たものであり、多重検定向けには調整していなかった。プロトコルに適合したコホートと、治療意図に基づくコホートに関しては図1の説明文で定義している。

結果
試験集団の特徴
米国とカナダにある臨床施設50ヶ所において、HSV-1およびHSV-2抗体陽性の女性31,770人を対象に検査を行ったところ、12,468人がHSV-1およびHSV-2血清陰性であった。そして、適格基準を満たしていたそのうちの8323人を2003年1月14日~2007年11月19日の同試験に登録した。プロトコル適合集団(主要エンドポイントを評価するための試験集団)における被験者自己報告の試験開始時リスク行動と、人口統計学的特徴を表1に要約している。試験開始時における人口統計学的特徴とリスク行動を考慮して、2つの試験群をバランスの取れたものにした。
ワクチンの有効性
ワクチンの2回投与後にHSV-1またはHSV-2のどちらかによって生じる生殖器疾患の予防、つまり主要エンドポイントでは、HSVワクチンの有効性を認めなかった(表2と図.2A)。その理由はワクチンの統合的な有効性が20%であったためである(95%信頼区間[CI]、-29~50)。コントロール群ではHSV-1の生殖器疾患がHSV-2のものよりも多かった(HSV-1の21症例 対 HSV-2の14症例)。HSV-1の生殖器疾患に対する有効性は確認したが(ワクチン有効性、58%;95%CI、12~80)(図.2B)、HSV-2疾患への有効性は確認できなかった(-38%;95%CI、-167~29)(図.2C)。ワクチンの3回投与はHSV-1に対する有効性に関連していたが(77%;95%CI、31~92)、HSV-2には関与していなかった(-40%;95%CI、-234~41)。また、症例の定義が培養陽性症例に限定されていた(臨床および血清学的基準に基づいて診断されたHSV症例を除く)分析でも、HSV-1に対する有効性が明らかとなった(2回投与の有効性、69%;95%CI、25~87;3回投与の有効性、82%;95%CI、35~95)。
HSVワクチンはHSV-1およびHSV-2感染症に対する予防効果を示した(有効性、22%;95%CI、2~38)(表2と補足用の付録)。感染症予防についてのこの全体的な結果は、HSV-1感染に対する有効性を示しているものの(35%;95%CI、13~52)、HSV-2感染に対する有効性は確認されなかった(-8%;95%CI、-59~26)。

HSV罹患のリスク要因
試験開始の2ヵ月後から20ヵ月後におけるプロトコル適合コホートHSV-1およびHSV-2感染と、自己報告行動および人口統計学的要因との関連性を分析した。自己報告の行動リスク要因に関しては、その分析対象が性的に活発な被験者5980人に限定された。HSV-1感染のリスク増大は、生涯における6人以上の性的パートナー(ハザード比、2.2;95%CI、1.3~3.8)と過去12ヶ月における1人以上のパートナー(ハザード比、1.9;95%CI、1.4~2.7)に関連していた。23歳以上の被験者は、18~22歳の者よりもHSV-1に罹ることが少ないようであった(23~26歳被験者のハザード比、0.6;95%CI、0.4~0.8;27~30歳被験者のハザード比、0.4;95%CI、0.3~0.8)。人種や民族、居所(米国またはカナダ)、ヘルペス感染者との過去の交際歴、コンドーム使用、性感染症(STI)罹患歴、およびオーラルセックスなどの要因は、HSV-1感染リスク増大に関連していなかった。
HSV-2感染のリスク増大は、生涯における6人以上との性的関係(ハザード比、2.0;95%CI、1.1~3.8)と過去12ヶ月における6人以上との性的関係(ハザード比、2.7;95%CI、1.3~5.5)、ヘルペス感染者との過去の交際歴(ハザード比、3.0;95%CI、1.7~5.3)、現在のパートナーがヘルペス感染者であること(ハザード比、3.4;95%CI、1.8~6.4)、STT歴(ハザード比、3.3;95%CI、2.2~5.0)、有色人種(ハザード比、3.1;95%CI、2.1~4.6)、米国在住(ハザード比、2.7;95%CI、1.2~6.2)に関連していた。HSV-2感染のリスク増大に関連していない要因は年齢や民族、コンドームの使用、オーラルセックスなどであった。また、15歳以後における性的活動の開始は、HSV-1感染(16~18歳における開始のハザード比、0.6;95%CI、0.4~0.8;18歳以後のハザード比、0.3;95%CI、0.2~0.6)とHSV-2感染(16~18歳における開始のハザード比、0.5;95%CI、0.3~0.8;18歳以後のハザード比、0.3;95%CI、0.2~0.6)のリスク減少に関連していた。
生殖器からのHSV-2排出
HSV-2感染症の被験者43名(HSVワクチン群30名、コントロール群13名)が、発症(HSVワクチン群15名、コントロール群9名)後または血清転換(HSVワクチン群15名、コントロール群4名)後の3ヶ月から6ヶ月の期間中に、60日間連続で肛門性器部から検体をスワブで採取した(付録の図.5)。そして検体の分析によって、ウィルス排出率はコントロール群よりもHSVワクチン投与群で高い(19% 対 29%;関連リスク、1.55;95%CI、1.28~1.86)ということがわかった。排出日におけるHSVの平均DNA量は、両試験群で差がなかった。

ワクチンの安全性
要求に基づく有害事象報告では発赤や腫れ、注射部位の痛み、倦怠感、発熱、頭痛、不快感などを挙げた(表3)。HSVワクチンは反応原性が高いため、局所疼痛と発赤、および腫れに対しては対照ワクチンよりも強く関連していた。また、全身症状である倦怠感、発熱、頭痛、不快感などの発生数に関しては、HSVワクチン群でわずかながらも有意な増加があった(表3)。HSVワクチンの2回目および3回目投与は有害事象報告数の増加に関連していないものの、反応原性はワクチンの追加投与によってわずかに低下した。
免疫原性
HSVワクチンは免疫原性および活性化ELISA[stimulatedELISA]の中和抗体である。予想通り、対照被験者はELISAのgD-2に対する抗体や、HSV-2中和抗体を有していなかった。幾何平均gD-2ELISA力価は試験開始時で21、HSVワクチンの3回投与後7ヶ月で6809であり、20ヵ月後には769に減少していた(詳細に関しては付録を参照)。HSV-2中和抗体はHSVワクチンの2回投与後に発現したが、その中央値は試験開始後6ヶ月で検出不可能なレベルにまで低下した(詳細に関しては付録を参照)。3回投与後には検出下限を再び超えたものの(7ヶ月時の平均力価は29)、試験開始後16ヵ月までには中央値が低下して検出不可能になっていた。
考察
不一致(一方のパートナーのみが感染者)のカップルを対象とした過去の2試験で、HSV-2に対するgD-2ワクチンの有効性を確認したことを考慮すると、HSV-1に対するワクチン有効性の調査結果と、HSV-2への有効性欠如は矛盾しているため、有効性相違の原因は2つの試験集団の何らかの要因にあるのだろう。厳選した不一致カップルの区別点は、感染パートナーによる非感染パートナーのHSV繰り返し暴露の可能性である。gD-2ワクチンを対象とした前回の試験ではHSV-2生殖器疾患の罹患率が、不一致カップルの非感染女性の間で高かったものの(19ヶ月で13.9%、1年当たり8.4%)、これはワクチン投与によって有意に低下した(有効性は2試験でそれぞれ73%と74%;P=0.01とP=0.02)。その一方で、HSV-1に対する有効性評価を目的とした過去2試験では、女性におけるHSV-1生殖器疾患の発症数がごくわずかであった(試験開始時に血清陰性であった女性対象の各試験で1症例のみ)。従って不一致カップル集団における有効性の異なりは、HSV-2耐性女性の選択バイアスやサブユニットワクチン付加的効果、未定義の免疫学的初回発症、感染パートナー由来HSV-2ウィルス抗原への繰り返し性器暴露、恋愛関係の長期化に伴う性的活動頻度低下などにその原因があったと考えられる。

HSV-1とHSV-2の生物学的特性は互いに異なるが、その原因はまだ明らかになっていない。gD-2ワクチンはHSV-1生殖器疾患および感染症に対して有意な予防効果を発揮する一方で、HSV-2に対してはその有効性を示さないのである。生殖器HSV-1の主な感染原因は、オーラルセックス(我々の試験ではオーラルセックスの経験がHSV-1感染のリスク要因になっていない)、低頻度の予防接種、口-性器経路(可能性としては外傷性の低いセックス)にあると思われるため、「HSV-1複製に適さない環境」が、「HSV-1のみに対するワクチンの予防効果」を説明するものとなる。また、HSV-2に由来するgD-2抗原は、そのアミノ酸の89%がHSV-1由来gD-2抗原と相同であるため、これによってHSV-1への予防効果を説明できるかもしれない。HSV-1およびHSV-2に対する抗体活性の違いは、ワクチン抗原に対するタイプ特異的免疫応答によるものと考えられる。そのため、ワクチン誘導性抗体のHSV-1中和能をさらなる研究で調査しなければならない。
HSV-1予防の相関関係に関しては予備データが利用可能であり、細胞性免疫以外の抗体はHSV-1予防と相関していなかった。免疫原性コホートのワクチン接種者では後に8名がHSV-1に、および10名がHSV-2に感染しており、HSV-1感染被験者では7ヶ月時のgD-2ELISA抗体力価(平均力価、3561)が非感染被験者のもの(平均力価、6875;P=0.04)よりも有意に低かったが、HSV-2感染被験者の場合(平均力価、6339;P=0.78)にはこの傾向が見られなかった。また、2ヶ月時または7ヶ月時の細胞免疫応答に関しては、後にHSV-1またはHSV-2に感染した被験者と、感染しなかった予防接種者の間で有意に異なっていた(詳細に関しては付録を参照)。
米国のHSV-1性的感染は子ども間で減少したものの、国民全体では増加しているということが疫学調査によって明らかとなったため、HSV-1に対するgD-2候補ワクチンの有効性は重要なポイントとなる。本試験の対照被験者間では生殖器疾患症例の60%、および感染症例の3分の2がHSV-1によるものであった(表2)。このデータは大学生と異性愛女性における性器ヘルペスの最大原因がHSV-1にあるという事実を反映しており、同様の傾向は他国でも確認されている。そして今ではHSV-1が新生児ヘルペス疾患の原因としてHSV-2に劣らないものとなったため、ヘルペスワクチンの開発と評価を行うと同時に、公衆衛生担当官および研究員が血清陽性率の動向を注意深く監視する必要がある。
HSV-1生殖器疾患を予防するワクチンの開発は大きく一歩前進したが、ヘルペスワクチン汎用利用の承認前にさらに進展することが望まれる。従ってHSV-1およびHSV-2疾患の両方を防ぐことが、ワクチン候補の必須条件になるだろう。また、無症候性のHSV排出は新生児や性的パートナーへのウィルス伝播をもたらすことがあるため、疾患の有無に関係のない感染予防も重要な目標となる。しかし、これは非常に困難なことであるため、弱毒化ワクチンやワクチンベクターを用いた予防などのアプローチが必要になるかもしれない。

図1. 試験対象者の無作為化
調整済みの「プロトコルに適合した有効性分析」と、「治療意図に基づく有効性分析」の両方を実施した。治療群の内訳を公表する前に、ある施設で一人の成人が重大なプロトコル違反をしたため、試験依頼者はこの施設の被験者データを分析対象から外したと発表している。治療意図に基づく分析では、重大なプロトコル違反が発生した施設の被験者や、試験開始時にHSV血清陽性であった者、ワクチン接種後の通院を怠った者を除くすべてのワクチン接種者を対象とした。そしてプロトコルに適合した分析は、その対象がプロトコル規定期間内のワクチン2回投与群(2ヶ月から20ヶ月のプロトコル適合コホート)または3回投与群(7ヶ月から20ヶ月のプロトコル適合コホート)の被験者へとさらに限定されたが、各リスク時期の始まりでその影響を受けることがなく、さらに指定プロトコルから逸脱することがなかった。仮に逸脱した場合には暴露と免疫原性、および有効性の評価方法が煩雑になっていた可能性がある。免疫原性の測定と感染結果の審査では、7ヶ月から20ヶ月のプロトコル適合コホート被験者の無作為サンプルを用いた。そしてヘルペス対象の臨床試験において、単純ヘルペスウィルス1型(HSV-1)および2型(HSV-2)抗体のウェスタンブロット分析によって計31,770名の女性を検査したところ、その39%が血清陰性であることがわかり、26%が試験中にワクチン接種を受けることになった。標的治療割り当て比率は1:1であったが、プログラミングエラーが生じたため、最初の被験者はHSVワクチン群の多い3:1の比率で無作為に割り当てられた。データ安全性監視委員会が問題を特定し、臨床試験のバランスを取るために無作為化を1:1の比率に補正したところ、HSVワクチン群の多い55:45の最終比率が得られた。

表1. プロトコル適合コホートにおける人口統計学的特徴と試験開始時のリスク行動
治療群間で有意差は確認されなかった(すべての比較でP>0.05)。HSVは単純ヘルペスウィルスを意味する。
人種や民族に関しては自己報告であり、試験にはアメリカ先住民やアラスカ先住民、ハワイ先住民や太平洋諸島系などの人々も参加していた。民族集団のデータは補足用の付録に掲載されている。
「性行為の経験あり」と答えた被験者のみに対してリスク行動に関する質問を行い、最も多く報告された返答内容を発表した。リスク行動の詳細に関しては付録を参照のこと。

表2. 2ヶ月(2回目の投与後1ヶ月)から20ヶ月のプロトコル適合コホートにおけるワクチン有効性エンドポイントの一覧
コックス比例ハザードモデルを用いてワクチンの有効性を測定したところ、治療意図に基づく集団から得られた結果は、プロトコル適合集団で確認したものとほぼ同じであった(治療意図に基づく結果に関しては付録を参照)。HSV-1は単純ヘルペスウィルス1型を意味し、HSV-2は単純ヘルペスウィルス2型である。1名の被験者がHSV-1とHSV-2の両方に感染していた。

図2. 2ヶ月(2回目の投与後1ヶ月)から20ヶ月のプロトコル適合コホートにおける、ELISAを原因とする生殖器疾患の累積発症率
パネルAはHSV-1またはHSV-2のどちらかを原因とする生殖器疾患の発症率を示しており、パネルBはHSV-1のみを原因とする発症率、パネルCはHSV-2のみを原因とする発症率を示している。

表3 治療意図に基づいたコホートにおける有害事象
治療意図に基づいた安全コホートは、天災によって試験モニタリングを計画通りに行えなかった1施設の被験者171名と、ワクチン接種後の追跡データがない被験者2名を除外したものである。NCは「計算されていない」ということを意味する。
HSVワクチン群における1件の死亡例はワクチン接種と関係していない。
新たに発症した慢性疾患と医学的に重要な状態に関しては、試験の割り当て状況を知らないGlaxoSmithKlineと国立衛生研究所が医療用モニターを用いて評価した。
ワクチン接種に関係している可能性がある事例に関しては、試験の割り当て状況を知らない各施設の調査員が評価を行った。
プログラミングエラーが原因で148名の被験者に誤った製剤を投与してしまったため、割り当てられたワクチン接種手順に従うために4回目の投与を行った。治療意図に基づく安全コホートの被験者計112名が4回の投与を受けたため、4回投与関連の安全性データもこの分析対象に含めた。

性腺機能低下症にはテストステロン治療が有効(ボストン大学医学部の研究結果)

性腺機能低下症(hypogonadal)の男性に対するテストステロン(testosterone)治療が正常な脂質状態( lipid profiles)を取り戻し、心血管疾患のリスクを低下させる可能性が、ボストン大学医学部( Boston University School of Medicine)の研究により明らかになりました。これに関する論文はInternational Journal of Clinical Practiceのオンライン版に掲載されています。

メタボリック・シンドローム(Metabolic syndrome )は心血管疾患(cardiovascular disease )や糖尿病(diabetes mellitus)のリスク増加に関連しています。メタボリック・シンドロームとテストステロン欠乏との間には強い相関関係があります。

男性の性腺機能低下症は、脂質異常症(dyslipidemia)やインスリン耐性(insulin resistance)、糖尿病、高血圧を特徴とするメタボリックシンドロームにより生じることが多いです。さらに、肥満や太り過ぎ(overweight )の男性はテストステロン欠乏を呈することがあります。

今回の観察的試験(observational study)では 33~69歳の性腺機能低下症男性255名を対象にテストステロン治療とその後の5年間フォローアップを行いました。その結果、テストステロン治療群では総コレストテロールと低比重リポタンパクコレステロール( low density lipoprotein cholesterol )、トリグリセリド、高比重リポタンパクコレステロールが段階的に減少しました。テストステロン治療はコレステロール値を改善させるだけでなく、収縮期および拡張期血圧も大きく低下させたので、高血圧を改善(amelioration)させる効果があると考えられます。

また、高血糖の代理マーカー(surrogate marker )である絶食時のヘモグロビンA1cと血中グルコースが低下したので、テストステロン治療はインスリン感受性と高血糖コントロールを改善させる可能性があります。C反応性蛋白などの炎症バイオマーカーや、アラニン・アミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase )、アスパラ銀酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase)などの肝機能障害マーカーなどの値も低下させたので、炎症反応を抑える効果があるのかもしれません。

今回の試験データは、長期テストステロン治療で体重と胴囲(waist circumference )の減少を確認した前回の試験結果と一致しています。性腺機能低下症の男性に対するテストステロン治療は、心血管代謝異常症(cardiometabolic diseases)に対して有効と言えるかもしれません。

糖尿病には肥満手術と薬物療法のどちらが有効なのか

これに関する論文が掲載された専門誌の名前は『NEJM(New England Journal of Medicine)』。世界で高い権威を持つとされる医学専門雑誌の一つです。

「Bariatric Surgery versus Conventional Medical Therapy for Type 2 Diabetes(2型糖尿病に対する、肥満手術と通常の薬物療法の比較)」

2型糖尿病の人に対し、「肥満手術を受けるか」「通常の薬物療法を受けるか」に分け、その効果を調べた研究の結果をまとめました。

対象となったのは、30歳から60歳で、糖尿病と診断を受けてから5年以上が経過している60人。BMIは全員が35人と、かなり肥満している状態です。

HbA1cの平均はおよそ8.65%。糖尿病と診断され、さまざまな治療を受けてもうまくいかず、高い血糖値が続いている人たちだといえます。

60人は抽選によって、20人ずつ3つのグループに分けられました。それぞれのグループは平均すると、性別や体重などに差が出ないように工夫されています。この3つのグループに別々の治療を行い、結果を比較することで、どの治療が優れているかを調べるのです。こうした研究のことは「ランダム化比較試験」と呼ばれていて、結果の信頼性は特に高いとされています。

一つ目のグループ(20人)は、現在標準的とされている治療(薬物療法)を受けます。医師や看護師、さらには管理栄養士などがチームを組み、その人に最も適した薬物治療を行うことで、血糖値を少しでも低く維持することを目指す治療です。同時に、食生活の指導と、運動療法の指導を行います。要は、いま日本でも一般的に行われている糖尿病の治療と同じものと考えて差し支えありません。

残り二つのグループはメタボリック・サージェリーを受けます。ただし、胃や腸をどのようにきるかなどの方法が異なっています。

手術を受けた後、被験者たちは血糖値が正常範囲に下がるまで、薬による治療を受けることができます。ただし薬物療法や運動療法は行いません。

どのグループに参加した人も、治療によって血糖値が良好とされるレベル(空腹時血糖値100mg/dl未満かつHbA1c6.5%未満)に達したら一切の治療をやめることが決められています。メタボリック・サージェリーの特徴は、手術後に薬などを使わなくても血糖値が正常レベルに保てるようになることだといわれてきましたが、それが本当に起きるのかどうかを調べることにしたのです。

こうして研究を始めて2年後、それぞれのグループの人たちの血糖値がどうなったかが調べられました。結果は、劇的なものでした。

手術を受けた人の場合、HbA1cの平均値は、わずか3か月で正常化しました。血糖値が正常化した人たちはそのあと、医薬品は飲まず、さらに食事療法や運動療法すら行いませんでしたが、2年後でも手術を受けた人の85%が良好な範囲を維持していました。

一方標準的な薬物治療を受けたグループでは、これほどの成果を挙げられた人は皆無でした。2年経過した後のHbA1cの平均値は、およそ7.7%。治療開始前より1%ほど下げることはできましたが、正常なレベルまで下げることはできませんでした。食事、運動、薬物による治療を2年間続けても、手術を受けた人の成績には及ばないということがわかったのです。

こうした結果が、信頼性の高い研究で確認され、世界有数の専門雑誌がその論文を掲載しました。この事実は世界中を駆け巡り、そして糖尿病の治療にかかわる多くの人が手術の効果に注目することになりました。

『NEJM』の論文は、世界中の研究者や、そして何より糖尿病に悩む人たちに、糖にゅお病は対応可能なものであり、そして何より、「治しうる」者なのだという希望を与えたと思います。

 

睡眠をもたらす脳内物質は何なのか?

脳波の睡眠と目覚めのパターンの変化をもとにして睡眠物質を探求した主要な研究にはどのようなものがあるでしょうか。睡眠物質が血液中の未知のホルモンである可能性は、すでにシャム双生児が別々に眠ることから否定されているので、研究の焦点は脳あるいは脳脊髄液中の物質にしぼられました。脳脊髄液と血液の間の物質の移動は極めて限られています。これを血液脳関門といい、血液中に入った異物が脳に達しないよう脳を保護する働きがあります。したがって睡眠物質は脳脊髄液から血管中には出ていかなという前提があります。その主要な研究は以下の通りですが、これらのほかにも多くの報告がなされています。

(1)スイスのマルセル・モニエらは睡眠中のウサギの脳を通過した血液から、ウサギの脳に注入すると脳波に深い睡眠に特有のデルタ波が高頻度で現れる物質を取り出し、これをデルタ睡眠誘発因子と名付けました。この物質はのちに9個のアミノ酸からなるペプチドであることがわかりました。

(2)米国のジョン・パッペンハイマーは、断眠したヤギの脳脊髄液をネズミの脳に与えると、ネズミの1日の運動量が減少することから、睡眠促進因子がこの中に含まれていると主張しました。この物質ははるかのちにムラミルペプチドという化学物質であることがわかりました。

(3)我が国の井上品次郎らは、断眠ネズミの脳の抽出液がネズミに及ぼす影響から、やはりこの中に睡眠促進物質が含まれていると考えました。この物質は後にウリジンと同定されました。

(4)柳沢勇らは、ヒトの脳脊髄液中のガンマブロムという物質が、ネコにレム睡眠を起こさせる効果のあることを発見しました。しかし、実際の脳波記録からレム睡眠期間を測定する基準はあいまいであり、レム睡眠の期間はかなり恣意的に測定されました。さらにこの物質はレム睡眠出現の頻度を増大させているにすぎません。

これらの研究グループは、いずれも驚愕すべき粘り強さで、10年以上にわたって彼らが信ずる睡眠物質の純粋化と化学構造の決定に努力しました。一方、すでに生体中に存在し、その化学構造もわかっている物質の中に睡眠物質を求めようとした研究も数多くあります。

ファイザー社がRemoxy開発プログラムを継続

ファイザー社は本日、徐放性カプセル(Extended-Release Capsules)であるRemoxy(オキシコドン[oxycodone])の製剤技術で大きな成果を得たことから、Remoxyの開発プログラムを継続することを発表しました。今年初めにFDAから受けたガイダンスに従い、ファイザー社はさらなる臨床試験を行い、2011年6月のComplete Response Letterに対応していきます。新たに行う試験では独自のRemoxy製剤を対象に、その生物学的同等性と副作用リスクの評価を行います。

Remoxyは治験中のオキシコドン持続放出型経口製剤であり、中等度から重度の疼痛管理でオピオイド鎮痛薬(opioid analgesic)の24時間投与が長期間必要とされる場合に使用されます。RemoxyはPain Therapeutics社がDURECT CorporationのORADUR技術を用いて開発した薬剤です。ちなみに、同技術は一般的な改ざん方法を阻むためのものです。2005年に King Pharmaceuticalsは Pain Therapeuticsと契約を結び、Remoxyの開発と販売の権利を獲得しました。King Pharmaceuticals社は2009年3月にRemoxyの全権利を獲得し、2010年12月に新薬申請書を再提出しました。そして2011年2月にはPfizerがKing Pharmaceuticalsを買収してRemoxyの所有権を取得しました。