らい(ハンセン病)の疫学的特徴

 1.発生状況 わが国で報告されているらいの現在患者数は6、729人で漸減の傾向にあり、そのほとんどは治療後の経過観察中あるいは後遺症の治療中の患者である。伝染源となり得るため治療を必要とする症例数は約800人に過ぎず、その有病率は人口10万対1以下という世界的に最低率国になった。しかし、最近数年間は毎年新規に20人前後の患者の届出があり、外国からの旅行者および移住者の発病が若干例報告されているので、防疫対策をおろそかにしてはならない。

 らいは世界的に蔓延していて有病者数は1200万人と推定され、一般に熱帯、亜熱帯地域に多い。世界保健機関(WHO)の地域別に化学療法を必要とする登録患者数(1990年、単位千人)を記すと、アフリカ483、アメリカ302、東地中海100、ヨーロツパ7、東南アジア2、693、西太平洋153であり、束南アジアが圧倒的に多い。この患者数を国別に多い順に挙げると、インド2、400、ブラジル239、ナイジェリア194、ミャンマー134、インドネシア122、中国55、スーダン47、フィリピン38、ベトナム38、エチオピア32となづている。

 2.感染源 患者の皮膚および上気道粘膜の病巣から排出されるらい菌が直接の感染源と考えられる。米国ではアルマジロに自然発生したらいが感染源として疑われるという報告があり、水、土、器物を介しての感染も否定できない。

 3.伝播様式 おそらくらい菌は皮膚の損傷部または上気道粘膜を通して侵人すると思われる。菌陽性患者の家族内接触者のらい罹病率は非接触者のそれの4~10倍も高いという。血清学的研究によると、この罹病率をはるかに上回る頻度で不顕性感染が見いだされる。レプロミン反応の陽性率も非接触者より接触者の方が高い。したがって、らいは接触者に感染を起こしやすいが病原性は低く、感染を受けたヒトのほとんどはらい菌に対する免疫を獲得して発病に至らないのであろう。

 4.潜伏期 おそらく数か月から数年以上の長期にわたり平均は3~6年といわれるが、1歳以下の乳児の発病も報告されている。

 5.伝染期間 これまで菌陽性の期間は伝染性を持続すると考えられていたが、化学療法により菌の伝染性は急速に失われ、フクシン染色性は長く残存することが明らかとなった。菌の伝染性の有無を知る目下最良の方法はヌードマウスヘの接種試験である。

 6.ヒトの感受性 発病年齢の頻度は10~20歳にピークを示したが、最近では高飴者の発病が目立っている。女より男の方が有病率およぴ罹病率ともに高い。発病の有無には生理学的、免疫学的、そのほかのいろいろな要因が関与し得るが、発病する場合の病型にはHLAの特定の型との関連性が認められる。