炭疽

動物およびヒトの急性細菌性感染症で、皮膚炭疽、肺炭疽あるいは腸炭疽などの型が見られるが、放置すると急性敗血症で致死的になる。

 皮膚炭疽では感染局所の発赤、浮腫で発病し、中央部に水疱を形成し、黒褐色の痂皮ができるoこれを炭疽癰carbuncleという。菌はやがて領域リンパ節から流血中に入り敗血症を起こす。

 肺炭疽は芽胞の吸入によって起こる。肺胞に達した芽胞は縦隔リンパ節に達し、発芽して急速に増殖する。 リンパ節は腫脹し、水腫、出血、壊死を伴う縦隔炎を起こし、次いで敗血症となる。初期は普通の上気道感染と同じでインフルエンザか風邪に類似するが、数日後に急激に呼吸困難、発汗、チアノーゼを呈する。脈拍、呼吸は増加するが体温はショックのため高くない。しばしば出血性髄膜炎を伴う。急性心不全脳出血と診断される場合が多い。このような症状に進展すると24時間以内にほとんど死亡する。経過が非常に短いので治療効果は望めない。

 腸炭疽はまれであるが、出血性腸炎を起こし血便が見られる。このほか主に咽頭部を侵されることもある。

 病原体は炭疽菌Bacillus anthracis。芽胞を形成する好気性グラム陽性大桿菌で運動性はない。

 炭疽は世界的に発生が見られる。芽胞が土壌中に存在し、主に草食獣のウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギに急性敗血症死を起こす。肉食獣はやや抵抗性がある。わが国の動物の炭疽はほとんどがウシで、近年では年間十数頭である。ブタの腸炭疽咽頭炭疽も知られている。家畜の炭疽は殺処分することが法で定められている。わが国でのヒトの炭疽はまれであるが多くは皮膚炭疽である。

 皮膚炭疽は感染動物の組織、血液、あるいは芽胞で汚染した感染動物の毛、皮革、骨などに直接接触して感染する。腸炭疽は汚染肉の摂取による。

 診断は病巣あるいは血液から鏡検で莢膜を有する大桿菌を確認し、培養で縮毛状集落を認めることでまず推定し、確認には炭疽菌カンマファージ、パールテスト、アスコリーテストを行うとともに、マウスに接種して死亡の確認とともに臓器、血液から菌分離を行う。

 ペニシリン、テトラサイクリンそのほか広域スペクトルの抗菌薬による治療が有効である。しかし敗血症が進行し流血中に菌が多数存在するようになった場合は、効果は望めない。