レジオネラ症

 1.発生状況 世界中で見られる。集団発生と散発例が知られている。院外(市中)肺炎の頻度としては、イギリス13.0%、フランス10.5%、ソ連9.9%、デンマーク2.1%、米国1.0%の報告があり、院内肺炎としては、米国3.2~3.8%、西ドイツ10.0%、東ドイツ6.0%の報告がなされている。わが国での正確な報告はないが、菌検出された症例は38例が数えられる。

 集団発生は本症の発見の契機となった1976年7月のフィラデルフィア市における在郷軍人の集会が有名である。ベルビューホテルでの約4、400人の参加者のうち184人が肺炎を発症29人が死亡した。現在まで各国から多くの報告があり、わが国でも某精神病院における7例の集団発生が報告されている。

 2.感染源 本菌は元来は土壌細菌であり、土壌、河川、湖、プール水、クーリングタワー水などから検出される。湖やプールで溺れた人が本症に罹患したり、クーリングタワーや蒸発乾燥器evaporating condenser の周囲で鴪染したりあるいは土木工事の風下で集団発生が見られた報告がなされている。また院内ではシャワーからの感染事例が多い。

 3.伝播様式 本菌を含む水滴~空気、土埃を吸入することによって発症する。特に空調システム、給湯システムが本菌により汚染されての感染例の報告が多い。

 4. 潜伏期 pneumonia typeで2~10日、 pontiac fever type 1 ~2日とされている。集団発生で見られる発病率は前者1~6%、後者95%である。

 5.伝染期間 ヒトからヒトヘの伝染はない。感染源は上述のように広く自然界であるので、常に感染機会は存在する。クーリングタワーの稼働する夏期の発生率が高い。院内肺炎では季節的変動はない。

 6.ヒトの感受性 上述のように、この菌に曝露されても発病率は低い。本菌の感染防御は細胞性免疫が担っている。

 したがって、高齢者、喫煙者、呼吸器系に基質的障害のある人、あるいは糖尿病、免疫抑制剤使用中の患者、腎移植患者など感染防御能の低下した患者は発症のハイリスクグループとされている。

 予防対策

 A 方針

 クーリングタワーの60%から本菌群が検出されるので、 これまで感染源として最重要視されていたが、本菌は自然界に広く分布しているので、真の感染源は不明のことがむしろ多い。多くのクーリングタワーをすべて消毒する必要性はないと考えられている。しかし、人が多数集まるビルやホテル、病院などでは清掃を頻回に行う方が望ましい。

 わが国の温水は温度が高く、これからの発生例はないが、諸外国では温水、シャワーからの発生が見られている。わが国の温泉水からも検出されている。

 B 流行時対策 患者が発生した場所のクーリングタワーの清掃、消毒。本菌群は多くの消毒剤に高感受性である。クーリングタワーや給湯システムの消毒に一定の方法は示されていないが、クロールを中心とした消毒で流行を防止した報告がなされている。

 c 国際的対策

 特にない。わが国では厚生省レジオネラ研究班で、診断基準や検査指針が作成され症例の収集が行われている。

 D 治療方針

 早期の抗菌薬治療が予後を支配する。有効抗菌薬はエリスロマイシン、リファンピシン、ニューキノロン薬である。テトラサイクリン、sT(スルファメトキサソール・トリメトプリム)合剤の効果は劣る。ペニシリン系やセフェム系あるいはペネム系、モノバクタム系などのベータラクタム系薬、アミノ配糖体系薬は無効である。ベータラクタム系薬無効の肺炎で本症が疑われる場合には、確診が得られる前に上記の有効抗菌薬の十分量を使用する心構えが必要である。

 このような臨床上の特徴があるが、確定診断は前述したように、1)菌の分離、2)血清学的診断法、3)検体中のレジオネラを特異抗体で染色すること、 4)PCR法および、5)血液、尿からの可溶性抗原の検出が主なものである。

 一方、原因菌であるレジオネラ属の臨床細菌学的特徴としては、1)検体中の菌はグラム染色では染色されにくいこと、2)通常の細菌用培地に発育しないこと、3)発育にL-システインと微量の鉄を要求し、 B-CYEα培地が優れていること、4)発育至適温度は36℃前後、培地pHは6.90±0.01と至適発育pH域が狭いこと、5)多くのものがベータラクタマーゼを産生しベータラクタム系薬により、その産生か誘導されること、6)食細胞に食菌されるが殺菌されにくく、特にマクロファージ内で盛んに増殖することなど多くの特徴が挙げられる。これらの特徴をよく知り、疑わしい症例に対して確定診断のための検査を行う必要がある。