糖尿病には肥満手術と薬物療法のどちらが有効なのか

これに関する論文が掲載された専門誌の名前は『NEJM(New England Journal of Medicine)』。世界で高い権威を持つとされる医学専門雑誌の一つです。

「Bariatric Surgery versus Conventional Medical Therapy for Type 2 Diabetes(2型糖尿病に対する、肥満手術と通常の薬物療法の比較)」

2型糖尿病の人に対し、「肥満手術を受けるか」「通常の薬物療法を受けるか」に分け、その効果を調べた研究の結果をまとめました。

対象となったのは、30歳から60歳で、糖尿病と診断を受けてから5年以上が経過している60人。BMIは全員が35人と、かなり肥満している状態です。

HbA1cの平均はおよそ8.65%。糖尿病と診断され、さまざまな治療を受けてもうまくいかず、高い血糖値が続いている人たちだといえます。

60人は抽選によって、20人ずつ3つのグループに分けられました。それぞれのグループは平均すると、性別や体重などに差が出ないように工夫されています。この3つのグループに別々の治療を行い、結果を比較することで、どの治療が優れているかを調べるのです。こうした研究のことは「ランダム化比較試験」と呼ばれていて、結果の信頼性は特に高いとされています。

一つ目のグループ(20人)は、現在標準的とされている治療(薬物療法)を受けます。医師や看護師、さらには管理栄養士などがチームを組み、その人に最も適した薬物治療を行うことで、血糖値を少しでも低く維持することを目指す治療です。同時に、食生活の指導と、運動療法の指導を行います。要は、いま日本でも一般的に行われている糖尿病の治療と同じものと考えて差し支えありません。

残り二つのグループはメタボリック・サージェリーを受けます。ただし、胃や腸をどのようにきるかなどの方法が異なっています。

手術を受けた後、被験者たちは血糖値が正常範囲に下がるまで、薬による治療を受けることができます。ただし薬物療法や運動療法は行いません。

どのグループに参加した人も、治療によって血糖値が良好とされるレベル(空腹時血糖値100mg/dl未満かつHbA1c6.5%未満)に達したら一切の治療をやめることが決められています。メタボリック・サージェリーの特徴は、手術後に薬などを使わなくても血糖値が正常レベルに保てるようになることだといわれてきましたが、それが本当に起きるのかどうかを調べることにしたのです。

こうして研究を始めて2年後、それぞれのグループの人たちの血糖値がどうなったかが調べられました。結果は、劇的なものでした。

手術を受けた人の場合、HbA1cの平均値は、わずか3か月で正常化しました。血糖値が正常化した人たちはそのあと、医薬品は飲まず、さらに食事療法や運動療法すら行いませんでしたが、2年後でも手術を受けた人の85%が良好な範囲を維持していました。

一方標準的な薬物治療を受けたグループでは、これほどの成果を挙げられた人は皆無でした。2年経過した後のHbA1cの平均値は、およそ7.7%。治療開始前より1%ほど下げることはできましたが、正常なレベルまで下げることはできませんでした。食事、運動、薬物による治療を2年間続けても、手術を受けた人の成績には及ばないということがわかったのです。

こうした結果が、信頼性の高い研究で確認され、世界有数の専門雑誌がその論文を掲載しました。この事実は世界中を駆け巡り、そして糖尿病の治療にかかわる多くの人が手術の効果に注目することになりました。

『NEJM』の論文は、世界中の研究者や、そして何より糖尿病に悩む人たちに、糖にゅお病は対応可能なものであり、そして何より、「治しうる」者なのだという希望を与えたと思います。