感染経路:直接伝播、関節伝播

 感染経路route of infection とは、病原体が感受性のある人間宿主に伝播される経路をいう。病原体の伝播様式mode of transmission というのも同じ意味で、次のように区分される。
 (1)直接伝播direct transmission

 病原体が、ヒトや動物に感染を起こすための侵入門戸に、直接かつ即座に運ばれることをいう(病原体が増殖または発育している節足動物からの場合を除く)。接触、接吻、性交などによる直接接触direct contactの場合と、くしゃみ、せき、たん、歌、余話の際に飛沫dropletが結膜や鼻、口の粘膜に噴霧される直接投射direct projeclion (飛沫散布droplet spread)の場合(飛沫の飛ぶ距離は通常1m以内)とがある。

 また、感受性のある身体組織が土壌、堆肥、腐敗中の植物質などに含まれる微生物に直接曝露される場合もこれに当たるにれらの物質中では通常腐生菌が発生する)

(例:全身性真菌症)

 狂犬病動物に咬まれた場合も、直接伝播に含める。

 なお、胎盤感染placental infection というのは、直接伝播の特殊型ともいえるもので、妊婦の感染が胎盤を通して胎児に波及する場合をいう。妊婦の梅毒罹患や風疹感染による出生児の先天梅毒や先天異常(先天性風疹症候群)などはその例である。垂直感染vertical infection という言葉も使われる。

 (2)間接伝播indirect transmission

 ① 媒介物感染vehicle-borne infection

 玩具、ハンカチ、汚れた衣服、寝具、調理器具、食器、外科器具、注射針、包帯などの汚染された器物を通して(間接接触indirect contact)、あるいは水、食物、牛乳や血清、血漿などの生物学的製剤またはそのほかの媒介物により、病原体が適当な侵入門戸から感受性のある宿主に運ばれ、感染を起こすことをいう。この場合、病原体は宿主に到達する以前に、媒介物の中またはそれに付着して増殖か発育をしていることもあれば、していないこともある。

 水系感染water-borne infection の特徴は、一般にその発生が爆発的で、飲料水使用区域に一致しており、男女、年齢を問わず感染者が見られることである。発病率、致命率は低く、潜伏期も延長するが、これは水中では病原体が増殖せず、また希釈されるためであって、これに反し食物感染food-borne infection の場合は、病原体が増殖して(特に夏期高温時)感染菌量が多くなるため、発病率、致命串は高く、潜伏期も短縮する傾向が見られる。

 ② 媒介動物感染vector-borne infection

 a 機械的感染mechanical infection一一這って歩く昆虫や空中を飛ぶ昆虫が病原体を足や口に付着させたり、消化管を通過させて、単に機械的に運搬して感染を起こすことをいう。この場合は、病原体の増殖や発育を必要としない。

 b 生物学的感染biological infection一節足動物が感染可能な状態の病原体をヒトに伝播させるためには、その前に病原体の増殖か生活環発育、あるいはこの両者が同時に必要である。また、節足動物自身が感染してから、感染力を持つようになるには、潜伏期にの場合は人体外)を必要とする。

 伝播は、剌咬時のっぽ、吐出物、糞表面の沈着物、そのほか刺し傷や掻き傷、擦り傷から侵入し得る物質などによって行われる。これは、感染した非脊椎動物である宿主によって伝播されるものであり、疫学的見地からは、媒介物としての役割しか果たさない、節足動物による単なる機械的運搬とは区別する必要がある。しかし、いずれの場合であれ、これらの節足動物は媒介動物vectorと呼ばれる。

 ③ 空気感染air-borne infection

 微生物を含んだエロソールaerosolが、適当な侵入門戸(通常は気道)に散布されて感染を起こすことをいう。微生物を含んだエロソールとは、一部ないし全部が微生物より成る粒子の空中懸濁物のことである。1~5ミクロンの範囲にある粒子は容易に肺胞中に吸収され、そこで保留され得る。しかし、多くの粒子は肺胞に沈着することなく、呼出される。これらの粒子は、長期間空気中に浮遊し得るが、その一部は感染性や毒力を保持したままであり、またほかの一部はそれを失っている。

 飛沫や大きな粒子は急速に沈下するので、それらによるものは空気感染とは考えない。

 以下の場合は空気感染であり、直接伝播の様式をとる。

 a 飛沫核感染droplet nuclei infection - 感染している宿主から排出された飛沫dropletの水分が蒸発して生じた微小残留物を吸入して感染する場合。飛沫核は各種の噴霧器で人工的にもつくれるし、また細菌検査室や屠畜場、へい獣処理工場、死体解剖室、空調機で偶然にできることもある。飛沫核は、通常長時間にわたって空気中に浮遊する(例:レジオネラ症)。

 b 塵埃感染dust infection - 土壌(例えば、真菌の芽胞が、風や機械的なかく乱によって、乾いた土から分離される)、衣服、寝具、汚染された床などから生ずるいろいろな大きさの小粒子を吸入して感染する場合をいう。