フランペシア :熱帯非梅毒性トレポネーマ症

 I 臨床的特徴

 1.症状

 第1期 潜伏期が過ぎた後、トレポネーマの侵入した部位(通常、顔、四肢)に紅色丘疹が発生する。これがすぐ潰瘍となり、その周辺に小形皮疹が多発する。この潰瘍は徐々に周辺皮疹を吸収しながら大きくなる。表面は盛り上がり増殖状または乳頭腫状となり、易出血性の赤みを帯びてきいちごに似てくるので、ドイツ語でフランベシア(きいちご)と命名された。この初発疹を母いちご腫mother yaws、 maman pian、 protopian、 buba madre と呼ぶoなお、いちご腫上の赤みは白人患者にいえるのであって、黒人では白~黒色となることが多い。ここからトレポネーマが証明される。これは萎縮性瘢痕を残して自然治癒する。関節痛、発熱が見られ、付属リンパ節が腫脹する。

 第2期 感染後2~4か月後、すなわち第1期の皮疹が消失したころ、または持続している間に第2期疹が始まる。第1期疹と同じ滲出性の乳頭腫が初期潰瘍の周辺、特に口、鼻、肛門、陰部に発生する。この皮膚粘膜移行部の皮疹は、梅毒の扁平コンジロームと似ている。また全身にできることもまれでない。これらの第2期疹は娘いちご腫daughter yaws、 pianoma、 framboesiomaと呼ばれる。

 これらは周辺に拡大して環状となることがあり、それを環状いちご腫cirri nateyawsという。掌蹠に発生すると、潰瘍化しないで角質増殖が起こり、タコ、ウオノメに似る。そのため歩行時の疼痛が激しい。これをカニ状いちご腫crab yawsという。

 第2期疹は6か月から3年以内に色素沈着または瘢痕を残して治癒する。

 一般症状として、頭痛、発熱、骨関節痛および全身性リンパ節腫脹が見られる。

 第3期 無加療患者の10%くらいが3~4年目に第3期症状を呈す。皮膚、骨、関節の病変である。

 潰瘍が限局性、蛇行状、結節蛇行状に現れる。約80%の患者で見る。また、足底に溝状、篩状および斑紋状の限局性角化腫が出現し、これを掌蹠角皮症keratodermiapalmaris et plantaris という。第2期病変の掌蹠の皮疹と似るが程度はより高度である。約25%の患者で見る。さらに、鼻中隔軟骨の破壊が骨から硬口蓋、咽頭にまで及び、これをガンゴーザgangosaまたはグーンドウgoundouという。さらに、骨・関節部に皮下結節が生じ、これを関節部結節症juxta-articular nodosities という。

 骨の硬直、変形が著しくなり、この骨膜炎のため脛骨がサーベル様になり、これをサーベル脚sabre tibia という。

 中枢神経系、心血管系、眼の病変は梅毒と異なり生じないといわれている。

 鑑別診断:その症状が多彩であるので多くの皮膚疾患との鑑別を要する。特に梅毒と皮膚リーシュマニア症とが重要である。なお梅毒め第1期疹は性病のため成人の陰部が多いが、フランベシアでは学童の露出部に出やすい。

 2. 病原体 フランベシア・トレポネーマ。

 3.検査 第1期または第2期皮疹の分泌物による暗視野法または螢光抗体法によるトレポネーマの証明。感染6週間以後は、梅毒血清反応(ガラス板法、緒方法、TPHA、FTA-ABS)が陽性となる。

 疫学的特徴

 1.発生状況 世界中の熱帯地、つまりカリブ諸島、中南米、赤道下アフリカ、インド、セイロン島、東南アジア、北オーストラリア、南太平洋諸島などに見られたが、ペニシリンの発見以後、消失した地区が多い。 1950年代のブラジルでは、いちはやく撲滅宣言を出している。アフリカでもWHOのキャンペーンにより、珍しい疾患となっている。しかし、近年再流行のきざしが見えつつあって、各地から新しい患者が報告されつつある。その患者はアフリカ(チャド、象牙海岸、ナイジェリア、ケニアなど)、アラビア(オマーンなど)、中南米(ジャマイカなどの西インド諸島、コロンビアなど)、東南アジア(マレーシアなど)などの出身者である。

 2.感染源 本トレポネーマ保有者。

 3.伝播様式 患者の1~2期病変ごとの直接接触によって感染するoまれに、ハエの媒介による感染もあるといわれている。

 4.潜伏期 2週~6か月、平均3~6週。

 5.伝染期間 自然治癒のない患者では3~4年以上感染源となる。しかし、第3期皮疹が感染源となることは少ない。

 6.ヒトの感受性 抵抗性があるとは考えにくい。

 Ⅲ 予防対策

 A 方針

 衛生教育ならびに衛生施設の向上。患者ならびに接触者の把握と管理。

 B 防疫

 病巣が治癒するまで患者の病変部との直接接触は避ける。治療はペニシリン60万単位を10~20日間、連続投与をもって1クールとする。時期に応して数クールを繰り返す。高単位療法も行われる。患者が発生した周辺の人々で、血清反応陽性を呈したときペニシリン内服を行い本疾患を撲滅したのが、 1950年代のブラジルのアマゾン地区である。