デング出血熱:チクングニア出血熱

I 臨床的特徴

 1.症状 主にアジア熱帯域に流行する、血管透過性異常、体液喪失、血液凝固異常を特徴とする重症疾病。主として小児に見られ、成人はときに罹患。突然の高熱で始まり、食欲不振、嘔吐、頭痛、腹痛を伴う。止血帯試験陽性、打ち傷ができやすい、静脈注射部からの出血、微細皮下出血、鼻出血、歯ぐきの出血などの出血が頻発する。胃腸からの出血はあまり見られず、通常ショック期に入るO肝は有熱期に腫大し2~7日続く。患者によっては熱が数日続いた後急速に悪化し、皮膚の冷却斑紋化、口周囲チアノーゼ、頻脈、重症例では血圧低下、脈圧縮小などデングショック症状の循環障害を示す。全例で血小板数が異常低下し、高ヘマトクリット値、低血清アルブミン、トランスアミナーゼ値上昇、プロトロビン時間の延長、補体C3蛋白の低下が見られる。治療をしないとショックを伴う例の致命率は40~50%と高い。病院の適切な看護と輸液治療を受ければ通常5%以下である。

 2.病原体 フラビウイルス属デングウイルス1、 2、 3、 4型。ショック例の大部分はデングの二次感染中に起こる。 トガウイルス科アルファウイルス属のチクングニアウイルスはバンコクで出血傾向(体液喪失)を伴わない軽症の病原体となる。チクングユアウイルスは、カルカッタで重症な出血例を起こしたことがある。

 3.検査 血清学的試験でデングウイルスに対し通常既往型(二次感染型)の抗体上昇(lgG)またはチクングニアウイルスに対する抗体上昇を示す。少数例ではあるがデングウイルスに対し一次感染型抗体応答を示す場合がある。急性発熱期の血液を蚊または細胞培養に接種するとウイルスの分離が可能である。病理解剖例の臓器からも蚊に接種して分離ができる

 II 疫学的特徴

 1.発生状況 爆発発生がフィリピン、ミャンマー、タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポールベトナムスリランカ、インド、南太平洋、キューバで起こっている。デング出血熱はほとんど例外なく現地人の間に発生している。発生はネッタイシマカの多発する雨季に限られる。

 2.感染源 ヒトとネッタイシマカ。

 3.伝播様式 感染したネッタイシマカの刺傷による。流行期中はこの蚊からウイルスが分離できる。ほかのヤブカ、特にヒトスジシマカも関係すると思われる。

 4.潜伏期 2週間以内と推定されるが特定できない。

 5.伝染期間 ヒトからヒトヘ伝染する証拠はない。

 6.ヒトの感受性 出血性合併症の病理は以前のデング感染で宿主が感作された後の異型ウイルスによる感染で誘導された免疫応答促進と説明されている。また毒力の強い特殊なウイルス株に関係があるかも知れないし、宿主の遺伝的な異常な感受性によるのかも知れない。流行の好発年齢は4か月から青年期、特に3~5歳である。

 予防対策

 A 方針

 デング熱と同じ。

 B 防疫

 特異療法 急性の血管透過性の上昇による血漿低下からくる体液喪失ショックに対し酸素療法、輸液が有効。輸血は高度の出血によりヘマトクリット値が落ちたときのみに適用。アスピリン投与は禁忌。

 C 流行時対策、国際的対策

 デング熱と同じ。