尖圭コンジローム

 I 臨床的特徴

 1.症状 尖圭コンジロームは無痛性の性病性の疣贅であり、小さなものは直径数mmから大きなものは大豆大までさまざまで、乳頭状あるいは鶏冠状の形をとり、先端に尖形の細かい突起が多数見られる。単発性にあるいはしばしば多発性に発症し、集蔟して腫瘍塊となることもある。腫瘍塊を呈すると悪臭を発することがあるo

 男性では陰茎のどの部分にも発症するが、亀頭、環状溝、包皮内板など湿潤した部位に好発する。外尿道口に発症することもしばしばあり、この場合の治療はやっかいとなる。乾燥した陰茎皮膚に発症したものは、典型的な形をとらず扁平化することが多い。

 女性では膣前庭、小陰唇など湿潤部位に好発し、しばしば子宮頸部にも発症する。子宮頸部のコンジロームは、子宮頸がんとの関連について議論されている。

 男女ともに肛門部に発症することがあるが、必ずしも肛門性交と関連づけられない症例が多い。まれに口角、鼻孔内に見られることもあるo

 環状溝に小丘疹が疣贅様に多数見られ、尖圭コンジロームを心配してくる人がいるが、これはpearly penile papule と呼ばれ生理的なもので、表皮乳頭の肥厚によるものである。

 扁平形のコンジロームは、梅毒性の扁平コンジロームと鑑別しなければならない。梅毒血清検査が必要となる。

 集蔟し腫瘍塊を呈したものは、組織診断により陰茎がんや女性外性器のがんとの鑑別を必要とする。

 Bowenoid papulosis は外陰部、肛門周囲に見られ、褐色の小腫瘍が多発する。組織学的にはボーエン病類似の所見が見られる。しかし、これも尖圭コンジロームの類型とされている。

 2.病原体 ヒトパピローマウイルス(HPV)。尖圭コンジロームはHPV 6型、 HPV11型であることが知られている。HPVの培養は、現在のところ不可能である。

 3.検査 通常、視診にて外陰部、肛門周囲など皮膚粘膜移行部に発症する特徴的な疣贅を見いだすことで診断される。確定診断は組織診断で行うo DN Ahybridiza-tion methodが開発されて、ウイルスの分離ができるようになった。

 II 疫学的特徴

 1.発症状況 世界中どの地域にも普遍的に存在する。欧米では最近増加していると報告されている。日本では1987年(昭62)からの結核感染症サーベイランス事業以前の公的報告はないが、 1980年ころから増加傾向が指摘されていた。感染症サーベイランスによると、尖圭コンジロームは1987年以降、徐々に減少傾向もしくは横ばい状態にある。尖圭コンジロームは、 STDの中では最も多い淋病の約1/3の患者数があり、性器ヘルペスとほぼ同じ発生頻度を示している。

 2.感染源 ヒト。

 3.伝播様式 性交。

 4.潜伏期 1~6か月。 2~3か月の症例が多い。

 5.伝染期間 疣贅が存在する期間は感染性あり。

 6.ヒトの感受性 感受陸は普遍的。罹患後免疫については不明。

 III 予防対策

 A 方針

 ほかの性病一般の方針と同じ。

 B 防疫

 1.日本では届出を要する性病ではない。 1987年より結核感染症サーベイランス事業の対象疾患として、感染状況が調査されている。

 2.特異療法 HPV 6、 HPV 11に対する有効な坑ウイルス剤はなく、治療は局所療法となる。また、再発を繰り返すことの多い疾患で、根気よく治療しなければならない。

 1)液体窒素凍結療法 液体窒素を綿棒に浸し、コンジロームに押しつけ、これを3~4回繰り返す。

 2)電気焼却法 局所麻酔を行ってから電気メスで焼却する。

 3)ポドフィリン液外用療法 10~25%ポドフィリン・アルコール溶液をコンジロームに週に2~3回塗布する。細胞毒性があるので妊婦には使用してはならない。なお、日本では治療薬としては製造発売されていない。

 C 流行時対策

 ほかの性病一般の方針と同じ。

 D 国際的対策

 特になし。