そけいリンパ肉芽腫症

 I 臨床的特徴

 1.症状 性交によるリンパ管およびリンパ節のクラミジア感染症で、症状はいろいろである。すなわち、潰瘍、性器の象皮病またはホモ性交の患者では特に直腸狭窄、直腸瘻などを生ずる。本病は、男子では、陰茎冠状溝における通常単発の小さい無痛の消えやすいびらん、丘疹または水疱様病巣をもって始まり、これは間もなく多数の化膿巣とリンパ節炎やリンパ節周囲炎になるのが通例である。しかし、初期症状として一側の横猿に気づくことの方が普通である。ただし、女子では横猿を伴わないことの方が多い。リンパ管走行が男子と相違するためといわれる。症状進行期の全身症状としては、発熱、悪寒、頭痛、腹痛、関節痛、食欲不振などがある。横猿が治っても、それで自然治癒と判断してはならない。経過はしばしば長期にわたり、作業能力の低下を来す。

 2.病原体 血清反応でL I、 L-2およびL-3の抗原型に分類される。

 3.検査 病巣リンパ節の吸引物の培養、病原体の分離、同定か決定的である。フライ抗原Frei's antigen (横広の膿を無菌化したもの)による皮内反応またはそけいリンパ肉芽腫症クラミジアに対する補体結合反応の抗体価の高さ(LGVの場合は他のクラミジア感染に比べて高い)が参考にはなるが、いずれも決定的ではない。フライ反応はオウム病、トラコーマ、その他のクラミジアによる性病にも陽性に出ることがあるし、また、過去に罹患した者にもフライ反応は陽性に出るので、新しい感染の検査にはならない。フライ反応抗原は現在市販されていない。

 疫学的特徴

 1.発生状況 世界中どこでも有病者は存在するが、特に熱帯、亜熱帯地方に広がっている。わが国では第二次世界大戦直後は数百人の届出があったが、最近は10人を割っている。すべて有病地からの輸入株と思われる。

 2.感染源
  ヒトが病原巣であり、患者の尿道、直腸、膣からの分泌物が感染源となる。

 3.伝播様式 大部分は性交による。ホモグループの感染症例の報告もまれではない。感染滲出液によって汚染された衣類、物品による間接接触感染もまれに見られる。小児では、添寝をしている患者から感染することが多い。

 4.潜伏期 原発巣発生までは4~21日で、通常7~12日。もし、鼠径横痃を初発症状とするならば10~30日、ときに数か月O

 5.伝染期間 活動性病巣が存在する期間で、数週から数年にわたる。

 6.ヒトの感受性 感受性は普遍的。罹患後免疫については不明。

 m 予防対策

 A 方針

 性病予防法によって規制されている。

 衛生教育や社会対策については、梅毒の場合と同様である(p. 175参照)。

 B 防疫

 1.届出、隔離、消毒、行動制限などについては、すべて梅毒と同様である。

 2.接触者および感染源の調査 ほかの性病と同様、患者に面接して感染源を探求し、疾病の発現以前または以後に性的交渉のあった者を調査する。

 3.特異療法 テトラサイクリンが横痃、潰瘍などの全病期を通じ有効である。効果を観察しながら、1日2~6gを10日間またはそれ以上の長期にわたり経口投与する。サルファ剤には耐性株の報告があるが、テトラサイクリンに対しては、まだそのような報告はない。

 横痃の切開はしてはならない。要すれば吸引により排膿をはかる。

 c 流行時対策

 AおよびBに挙げた対策を強化する。