坐剤は、飲み薬よりも速く効く

 

 坐剤は、何も字の通り、坐った姿勢で投薬するわけではありません。肛門を通して直腸内に投与する薬剤のことを「坐剤」といいます。

 坐剤には、固形のものもあるし、液の詰まった浣腸のような形をした「注腸坐剤」と呼ばれる薬剤もあります。坐剤を誤って食べてしまったという笑い話もあります。また、女性の場合は「膣坐剤」が処方されることもあるので、くれぐれも挿入部位を間違えないでください。ふつうの坐剤は、必ず肛門を通して直腸内に入れなければなりません。

 また、坐剤は、夏場に部屋に置きっぱなしにしておくと、溶けてドロドロになります。いずれの家庭でも、坐剤は冷蔵庫で保存されているはずです。

 しかし坐剤を冷蔵庫から取りだし、すぐに使うと、硬すぎて挿入時に肛門が痛く感じます。そこで、坐剤を包装ごと手の中で約1分ほど握り、少し温めてやってください。そうすれば、坐剤の表面が少し溶けてやわらかくなり、肛門に挿入しやくなります。

*なぜ、飲み薬よりも速く効くか

 風邪をひいた時、医師から「解熱の薬をだしておきますから、熱がでたらお尻に入れてください」と言われ、解熱薬の坐剤をもらうことがあります。なぜ、飲み薬ではなく、坐剤にするのか説明しましょう。

 解熱・鎮痛・消炎薬のジクロフェナクナトリウムの坐剤、ふつうの錠剤、徐放性薬剤の3種類を投与した後、薬が吸収されて循環血液中に入ってきた薬の濃度の変化を比較したものです。坐剤は、肛門に入れた後30分もすると、薬が吸収されて循環血液中の薬の濃度が高まっています。直腸からの吸収がよい理由の一つは、解剖学的な要因があります。直腸から全身へ戻っていぐ静脈は、直接、大静脈に入ります。しかし、小腸や大腸からでた静脈は、いったん門脈に集められ、すべて肝臓を通ります。この際、吸収された薬が肝臓で代謝によって処理を受けます。この肝臓の作用を、専門用語で「初回通過効果」と呼びます。

 いっぽう、直腸から吸収された薬は、肝臓での初回通過効果を受けません。だから、循環血液中への薬の吸収が優れているのです。

 さらに、坐剤からの薬の吸収は、極めて速いという特徴があります。直腸に坐剤を入れると体温で坐剤が溶け、解熱・鎮痛・消炎成分が吸収され、30分以内に循環血液中に薬が入って効きます。効き目が速いことが、坐剤の最大の利点です。このようなことから、ノバルティス社のジクロフェナクナトリウム(商品名ボルタレン)はヒット商品となっています。

*副作用が少ない

 また、解熱・鎮痛薬は、胃腸などの消化管を荒らしやすい、という副作用があります。このような副作用を避けるためにも、坐剤が好まれています。

 初めて坐剤を肛門に入れると、不安と緊張感から、せっかく入れた坐剤をだしてしまうことがあります。

 坐剤を入れた後、すぐでてきそうな場合は、もう一度押しこみます。しかし、5~10分たってから、坐剤が溶けて半分くらい液状になってでた場合は、新しくもう一剤を入れてはいけません。先に入れた坐剤の薬が、すでに吸収されているからです。

 このような場合は、次回の投与時間がくるまで辛抱して待つほうが安全です。解熱薬の場合は、体温の下がり具合を観察し、次の投与時間を決めてもかまいません。

 最近、新しい作用の解熱・鎮痛・消炎薬の新薬が、アメリカで開発されています。炎症に関与している酵素にシクロオキシゲナーゼ2(COX2)があります。

 この酵素の阻害剤のなかから、素晴らしい薬ができました。COX2の阻害薬と呼ばれるこの新薬は、飲んでも胃腸を荒らす副作用がものすごく少なくなっています。もう2~3年もすると、日本でも副作用の少ない解熱・鎮痛・消炎薬ができるようになると思います。

◆点滴は速度の調節が大事。速くすればするほど体のなかの薬の濃度は高くなる。

◆坐剤は吸収が速い、つまり効き目がでるのが速い。また胃や腸が荒れない利点なある。