大腸で壊れるカプセルの開発
このような大腸の生理学的な特徴を利用し、薬剤を飲んだ後、胃や小腸では壊れないが、大腸で初めて壊れるという「大腸内圧崩壊型の大腸デリバリーカプセル」を、私たちの研究室は世界で初めて開発しました。
どのようにして作るかというと、市販されているゼラチンカプセルの内側に、エチルセルロースという水に溶けないポリマーを、約40川(人の髪の毛の約半分弱の太さ)の厚さにコーティングするというものです。従来、このポリマーの主な使用目的は、錠剤の表面に艶をだし、ピカッと光らすものでした。
私たちの薬の世界では、コーティングと言えば、錠剤やカプセルの外側から外側へとかけていくことが長い間の常識でした。
しかし、ゼラチンカプセルの外から、水に溶けないポリマーでコーティングすると、薬剤を飲んだ後、ゼラチンは溶けないし壊れないので、消化管を素通りしていくカプセルになります。そこで、ゼラチンカプセルの内側をコーティングしようということを思いつきました。
次に、このカプセル剤は飲んだ後、大腸の圧力を感じて壊れるようにするので、このカプセルに入っている薬は液状でなければなりません。なかの薬が固体だと壊れません。
そこで工夫しました。一つは薬を溶かして液状にして充填する方法、もう一つは坐剤の基剤を使って薬をいったん溶かした後でカプセルに充填する方法です。
ご存じのように、坐剤は、投与する時は手でつかめるほどの固体です。体温によって基剤は溶け、カプセルのなかは液体になります。これはまさに深海艇が海中に深く下りていくようなものです。
たとえて言えば、薬を液状にして詰めた深海艇が、小腸という海溝を降下していくと、大腸という深海の圧力は8000気圧にも達します。深海艇の強度さえ調整しておけば、思い通りの深さで壊れます。
この新しいカプセル剤は、小腸から大腸に運ばれると圧力が高くなり、やがてその圧力に耐え切れなくなって壊れます。そして、カプセル剤が壊れた時、液状になっている薬は大腸粘
膜に作用して治療する、これが私か考案した大腸デリバリーカプセルの最大の特徴です。