メルク社

薬剤の副作用問題として世間に衝撃を与えたのは、2004年のメルクの消炎鎮痛剤バイオックスの自主回収です。

バイオックスはCOX-Ⅱ選択的阻害剤と呼ばれ、従来の消炎鎮痛剤の弱点とされた胃腸などの出血が少ないため、安全な痛みどめということで極めて汎用的に使われていた薬剤です。当時のバイオックスの売上げは全世界で25億ドル、メルクの売上げの11%を占めるブロックバスターでした。

メルクはCOX-Ⅱ選択性の持つ可能性に期待し、通常よりも多い用量で大腸がん予防などの臨床試験を開始しました。ところが、その中でバイオックスを投与された患者群で心筋梗塞などの心疾患リスクが2倍になるという結果が示されました。バイオックスは心筋梗塞などのリスクを増大させる恐れがあるとして、同年9月に米国で自主回収に追い込まれました。

その後、2005年8月にバイオックスを服用して死亡した遺族からの訴訟により、死亡したのは副作用のリスクを隠していたメルク側の過失だとして、遺族に280億円の支払いを命じる判決が出ました。

メルクは2007年度に48.5億ドルを和解費用として計上し、バイオックスの副作用問題に裁判上では一応の決着をつけることが出来ました。ただし、その間にバイオックスの心疾患リスクの増加についてメルクは事実を公表していなかったという非難が高まり、副作用に関する医薬品業界全体のモラルを問われかねない状況に陥りました。

このバイオックス副作用問題を境にして、医薬品業界に対する逆風が一気に高まったことは否定できません。加えて当時のメルクは大型企業買収から一線を画し、自社開発品による成長を標榜しており、医薬品業界の重鎮でした。それだけにイメージダウンは大きかったのです。