グリホサート、グルホシネート、ブロモキシニルに耐性のある組み換え作物

 実質的同等性の名のもとに、食品の定義が拡大され、安全性を確保する枠組みがあいまい化されたことである。以前、石油を原料に酵素によって合成した蛋白質、いわゆる石油蛋白が日本の企業によって開発され、食品としての利用が試みられたことがある。石油を原料とするために安全性が危惧され、世論の強い反対を受けて、結局は開発は中止された。遺伝子組み換え食品の場合も、食品として拡大解釈を許せば、今後再びこのような発想で食品が開発されることが十分考えられる。

 従来から化学的に合成された食品添加物に対しては、慢性毒性や生殖毒性を含めた安全試験が法律にもとづいて義務づけられている。しかし、組み換え技術を用いた食品添加物の安全評価には、慢性毒性試験など、従来の食品添加物に課せられていた安全性試験の義務づけがなく、企業にとっては極めて有利な取り扱いがなされている。「安全性審査基準」による評価体制は。食品衛生法による安全規制の枠組みを根底からゆるがすものになっている。

 輸入の際の検査は、従来の輸入食品と変わる点はない。危害が生じる恐れがある場合に初めて検査される。通常は、モニタリング検査が行われているにすぎない。 DNAの検出試験は時間がかかり、高度の技術が要求される。現在、年間約2,900万トン、届け出件数にして130万件の輸入食料の検査は、わずか264名の食品衛生監視員の手に委ねられている。とても満足な検査はできないことが容易に予測できる。現実にも、厚生省による安全性が確認されていなかった遺伝子組み換えトウモロコシが、お菓子やコーンスターチから見いたされたことが市民団体の手で明らかにされた。輸入時のチェック体制が十分機能していないことが露呈された。

  「ガイドライン」にもとづいたこれまでの安全審査は、輸入業者が自主的に申請する届け出制になっていた。たとえ違反したとしても法的な強制力はなかった。この点は2000年4月に、食品衛生法の規格基準にもとづいて遺伝子組み換え食品を規制できるように改められ、安全審査が法的に強化されることになった。耐農薬性の組み換えダイス、トウモロコシ、ナタネ、ワタなどにはグリホサート(商品名ラウンドアップ)が使用されている。こわまで、グリホサートのダイス中の残留基準は6ppm、さらに、除草剤グルホシネトの基準見直しが食品衛生調査会で審議されている。これら農薬の残留基準が見直されたのは、米国で基準値が緩和されたために、それに対応する必要があったためである。また、ブロモキシニルに耐性を持つように遺伝子組み換えされたワタが認可されている。米国では、この組み換えワタが認可されるまでは、ワタにブロモキシニルは使われていなかった。組み換えワタの認可とともに、使用が認められた経緯がある。

 現在、安全確認が済んだ組み換え作物は29品種ある。29品種のなかで実に21品種までが、これらグリホサート、グルホシネート、ブロモキシニルに耐性のある組み換え作物であることは注目に値する。農薬の使用が減るとか、環境に優しいとするのが、組み換え作物を開発する企業の大義名分であった。これらの21品種の場合、大義名分とは逆に、農薬の使用対象農作物が増やされたり、残留農薬基準が緩和されている。米国の基準に追従せざるを得ないWTO協定の枠組みが、日本の食品安全行政を歪めているといえる。